epilogue
one day
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い出してからさほど時間がたっていないことと……何より彼女自身の「背景」を考慮すればそれは驚異的と言っていい上達速度なのだが、牡丹はそれには触れずに当たり障りのない返答を返す。
彼女は、「あたりまえ」であろうとしているのだ。
「いやぁ、失敗、よりもなんというかっ、敗北、のほうがっ!」
「敗北の方が?」
「一層惨めだねっ!」
「そうですね」
「ああっ!? ボケ殺しっ!!?」
当たり障りのない会話をしながら、その真意に思いを馳せる。
―――料理を、教えて欲しいんだっ!
―――やっぱりっ、ここは普通にっ、カノジョとしてさっ!
(……「普通に」、ですか……)
彼女は、「普通」ではない。牡丹も自分が普通だとは思わないが、それと比しても彼女はよく言えば波乱万丈、悪く言えば……過酷な人生を送ってきた。それこそ料理どころかあらゆる「普通」を奪われるような。
(その生活は……「悲劇のお姫様」は、嫌なのですね)
―――えへへっ、やっぱり牡丹さんとはっ、友達ですしっ!
―――なんでも任せちゃうのはこころぐるしーわけですよこれがっ!
彼女は、自分のような従者の仕える「お姫様」ではなく、「友人」を望んだ。
ならばあくまで、「友人」である。
「そろそろ火加減くらいは覚えて欲しいものですね。焦げた分は自分が」
「いやいやいやっ! 私が食べるよ焦げ目玉焼きっ!」
「……しかし、」
「そこははんせーの意を示すわけですよっ!」
自分も、彼女を「友人」と見る。
「使えるべき人の客」ではない、一人の「友人」として。
「病み上がりの病人」ではない、並び立つ「仲間」として。
そして「悲劇のヒロイン」ではなく、「一人の女の子」として。
「では、そのように。早く普通の目玉焼きが食べられるように頑張ってください」
「はーいっ! 了解でございますっ、お師匠さまっ!」
彼女と、軽口を叩き合うのである。
◆
「……ったく……」
そんな二人の会話が、俺には丸聞こえだった。
「まーたアイツは……」
寝起きの頭を抑えながら、深々とため息を一つ。アイツはどうにも自分の体を軽視する傾向がある。今でこそある程度……いや、昔のごとく有り余ってるほど元気はあるものの、一応は病み上がり、になるのだ。
「飯くらいちゃんとしたものを……って、これが牡丹さんの気持ちか……」
ずいぶん前に、己が受けた仕打ちを思い出す。女性にあそこまで無理強いして食え、というのも若干アレだが、それでも焦げたものを食わしていいわけはあるまい。そして牡丹さんもそれはわかっているはずなのだが。
「牡丹さん、アイツには甘いんだよな……」
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