31:一生後悔するよりも
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リカは微笑み、リズベットもにかっと笑った。そして持ち上げていた戦鎚を降ろして、
「わっ……リズ……?」
リズベットは……アスナの首にそっと腕を回して、その肩の上に自分の顎を置いて抱き締めていた。
「同じ事を言わせないでよ、アスナ……。このまま戻って、もしも、もしもあんた達に何かあったら……あたし達は、一生後悔する」
そう湿った声をあげ、それからぎゅ、と少しだけ抱き締める腕に力が込められる。
「あたし達が足手まといになるかもしれないことくらい、あたし達が一番よく分かってる……。だけどっ、自分が許せなくて一生後悔するよりも、あたしはあたしの友達の為に一緒に行く事を選びたい」
「リズ……」
アスナが呟き、リズベットの肩に手を置いていた。
「……あーあ、言いたかった事、リズさんに全部言われてしまいました」
肩をすくめながら、半分剣呑に半分おどけた器用な声色でシリカが言った。
「シリカ……リズ……」
俺の声に反応したシリカは此方を向き、にこりとはにかんだ笑顔を浮かべた。
「お願いします、キリトさん。あたしにとって……今こそが、あなたへの恩返しの時だと思うんです」
きゅうーっ! とピナの士気万端の声が上がる。
俺はアスナと目配せをし、アスナがリズベットをあやすように軽く抱き締め返しながら頷くのを見て、俺もシリカに頷いた。
「……分かった。じゃあ、アスナを頼むぜ、シリカ」
「はいっ!」
胸の前でぎゅっと両手を握りながら答えた。
そして再びアスナを見る。
「アスナも……少しの間、二人を頼む」
「うん。任せて、キリト君。だから……」
アスナはそこで言葉を区切り……じっと見つめてくる。リズベットとシリカも同様に。
俺はポーチから転移結晶を取り出し、空叩く掲げながら言った。
「ああ、すぐに戻ってくる。それまで頼むぞ、みんな……! ――転移! アルゲード!」
直後、強い光に包まれながら霞みゆく視界で……三人と一匹が、力強い笑みでしっかりと頷いてくれていたのを、俺は確かに見届けていた。
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