偵察中の森の中で
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今のヴォルフはおにぎりを片手に水差しに入っているお茶を飲んでいた。食べ物に夢中のようでいて、周囲に気を張っているようだ。
神無は頷くと、ペースを落として食べ始めた。視線をヴォルフに向けると既におにぎりを一つ食べ終えている。二つ目を掴みながら周囲に鋭い視線を走らせているのが分かった。
その様子は、如何なる時も決して油断せず外敵からの攻撃に対する警戒を緩めない、孤高の肉食獣のようだった。
神無はヴォルフの言うとおり、ペースを落し……僅かに地面に振動が伝わったのを感じた。歩いていたり、他所事をしている時には気付かない位に僅かな物だ。
「……遠いな」
神無は小さな地震かと思ったが、地面に掌を当てて音の出処を探っているヴォルフを見て、事が単なる地震ではないことを悟った。
「分かるの?」
「ああ。ある程度の間隔が空いている……が、歩行じゃない。これは、何かが地面を叩いているような……」
ヴォルフもその正体が分からないらしく、イマイチ判断に困っているようだが、最後のおにぎりを食べて川で手を洗う。
神無は最後のおにぎりを咀嚼しながら、この件を今後の為の予習として見に行くか、それとも迂回して目的地に向かうかのどちらが良いのか、判断が付かなかった。
いつか仲間達と霊峰まで遠出する際に、今回の件の正体を知れば対処も容易になるかもしれない。
だが、今回は『霊峰への偵察』が目的だ。目的達成の為に迂回したほうが良いのかもしれない。
「見に行くぞ」
「ふぇ?」
立ち上がりながら告げるヴォルフに、神無は虚を突かれて間の抜けた声を上げた。
「何れここを皆で通るかもしれない。それに、この音の正体が村に何か害を齎さないとも限らないからな」
どんな時も必要な物は何よりも情報だ、とヴォルフは言外に告げると荷物の入った鞄を軽く揺すったりして状態を確かめる。
神無はそんなヴォルフを尻目に荷物を弁当箱等の荷物を手早く片付けた。
「行けるよ」
「分かった」
手を洗った神無が告げると、ヴォルフは振動が伝わってきた方向へのアタリは大体付けたらしく、そちらの方……来た方向とは反対側の森の奥へと向かっていく。
「神無」
「何?」
「御馳走様」
不意に告げられた場違いな一言に、神無は一瞬頭の中が真っ白になるが、すぐに意味を理解すると微笑んだ。
「うん。御粗末様でした」
音が響く。
それは物を壊す破砕音であり、破壊を齎すモノの剣呑さを表す。
それは大きくて重い音であり、音を出すモノの大きさや重さが、大まかではあるが容易に想像させてしまう程だ。
それは一定の間隔を開けて鳴り響いており、それは何者かが重量物を用いて、何かを執拗に破壊を試みていることが理解できる。
「……何アレ?」
「……砂漠にいるものとばかり思っ
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