偵察中の森の中で
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さが全てを洗い流し、清めてくれるような感覚が実に気持ち良い。
「隙あり!」
と、神無が楽しそうな声と共に水を飛ばしてきた。
「……」
びしょ濡れになった顔を神無に向けると、神無は楽しそうに笑っていた。
「やった! ヴォル君に初めて当たった!」
おそらく訓練の時に一度もヴォルフに攻撃を当てる事が出来なかった事を言っているのだろう。
「生き抜きも良いが、今は止めておこう。余計な体力を消耗する」
ヴォルフはそう言うと、顔が濡れたついでに編み笠を外し顔を洗い始めた。
「あ……」
神無が残念そうな声を出すが、ヴォルフは無視して顔を洗う。今の自分達は敵地にいるような物なのだ。このような状況下では何が起こるか分からない。
このような空けた場所で食事をするのも本来なら御法度だ。だが、今は自分一人ではない。それに何か異変があれば周囲の鳥達が知らせてくれる。
「飯にしよう」
そう言って座って食事をするには適した場所を見付けて座り込む。
「うん」
神無も手を拭いた手拭いをしまいながらヴォルフの隣に座ると、背負っていた鞄を下ろして中身を取り出し始めた。
艶のある黒を基調とし、紅葉が描かれた弁当箱が二つ。オニギリが包んである布が二つ。お茶の入った水差し。
「随分と持ち込んだな」
「えへへ。張り切っちゃいました」
弁当箱の中身は、小魚の佃煮、厚焼き卵、旬もの野菜のサラダ、赤芋を蜂蜜で煮込んだデザートが入っていた。
ヴォルフは料理についてはサッパリだったので、これにどれだけの労力を費やしたのかは理解できなかった。
本来なら、この手の偵察任務で食料の持ち込みは、簡易な携帯食料のみとするのが基本であり、余計な荷物の持ち込みは厳禁だ。重量物の携帯にも体力を消耗する。
これらの調理で、神無の体力が削られていない事を願うばかりだ。
……だが、美味い。
普段から無口なヴォルフだが、食事の時は特に顕著だ。取り分け、訓練時の簡易な食事の時と、普段の食事の時の差が大きい。
訓練時に食べる物は基本的に携帯食料や、現地で調達可能な物を集めて、簡易な調理を行って食べる物等であるため、大雑把なものが多い。
その時は本当に分かり易い。腹に入れば良い、と無表情ながらも顔に出る。
対する、家での普段の食事……取り分け自分好みの食事の時は、食べ物に夢中……とでも言うような雰囲気になる。全身で「美味しい」と語っている。尋ねる必要すら無い。
神無はそんなヴォルフの様子を見て嬉しそうに微笑んだ。
いつもはそんなヴォルフの様子を見ながらゆっくり食べるのだが、今は偵察中なこともある為速めに食べることにする。
「急ぐ事も良いが、いつものペースにした方が良い。喉に詰まらせてからじゃ遅い」
と、食べてる最中だったヴォルフが言う。
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