第一章
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自分の力で
ソフィア=エンターは幼い頃からその顔立ちだけでなく美声、そして天性の音楽センスを知られていた。それでハイスクールを卒業すると共にだ。
歌手、それもオペラのそれになるべく教育を受けることになった。。その教育の中でも才能を開花させてだった。
教育を終えるやいなやすぐにイギリス中の歌劇場から声がかかる様になった、母親であるマリーはその娘に言うのだった。
「凄いわね、今度はロンドンでよね」
「ええ、コヴェントガーデンでね」
イギリスでも有名な歌劇場の一つだ、そこでというのだ。
「歌うことになったわ」
「歌うのは椿姫よね」
「ヴィオレッタよ」
ヒロイン、まさに主役をとだ。ソフィアはその栗色の長いストレートの髪が映えている青の瞳がサファイアの輝きを放つ顔で答えた。すらりとした顔立ちは彫刻の様であり小柄だがそのスタイルはバランスがいい。
自分の若い頃を思わせるその娘の顔を見ている母にだ、笑顔で言うのだった。
「あの役を歌うのよ」
「あの有名な役を」
「今から楽しみにしているわ」
そのヴィオレッタを歌うことをというのだ。
「前のミミも楽しんだけれど」
「ラ=ボーエムのね」
プッチーニの代表作の一つだ、ミミはその作品のヒロインである。
「あの役は評判よかったわね」
「それで今度はね」
「ヴィオレッタね」
「あの役をコヴェントガーデンで歌うの」
「絶対に成功させてね」
「そのつもりよ。ただね」
ここでだ、ソフィアはその顔を急に曇らせてだった。
そのうえでだ、母にこう言ったのだった。
「あの人がね」
「あっ、ジョアン君ね」
「そう、彼がね」
「あの子がまたやらかしそうなのね」
「それが心配なのよ」
こう言うのだった。
「今度は何をするのか」
「悪い子じゃないけれどね」
マリーもだ、困った顔になって言うのだった。
「決して」
「そう、悪い人じゃないのよ」
「けれどね」
「何かっていうと出て来て」
「言うからね」
「そこが困るのよ」
その困った顔で言うから余計にだ、ソフィアの心情が出ていた。マリーはその娘の顔をしっかりと見ている。
「どうにも」
「どうしたものかしらね」
「ううん、彼にもいつも言ってるけれど」
「それが、なのね」
「そう、その場は大人しくなっても」
それでもだというのだ。
「すぐにね」
「それこそ本当にその場限りで」
「次の時には騒ぎ出すのよ」
「困った子ね、昔から」
「そもそも何でなの?」
ここでこうも言ったソフィアだった。
「彼とハイスクールまで一緒だったのかしら」
「そのことね」
「ジョアンは貴族、それも侯爵家の三男さんで」
「私達はロンドンの生まれだけれどね」
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