第三章
[8]前話
「鉄砲は火縄銃です」
「マスケット銃ですらありませぬ」
「古い刀に槍」
「弓矢も使っていまうし」
「信じられぬ位にです」
「古臭い兵器ばかりです」
士官達も驚きを隠せないまま口々に言う、そして。
ペリーは何故日本の武器がそうなのかをだ、士官達に真剣な顔になってこう語ったのだった。
「使わなかったからだな」
「その武器をですか」
「長い間」
「それで、ですか」
「あの様な古臭い武器ばかりなのですか」
「この国は」
「戦争がないことはいいことだろうがな」
ペリーは泰平自体は肯定した、だが。
それと共にだ、こう言ったのだった。
「しかしあらゆるものは使わないとだ」
「何も変わらない」
「そのままになってしまうのですね」
「そういうことだ、この国の人間はあの古い大砲を誇らしげに見せて二百年以上も前の戦争でどれだけ役に立ったのか言っていたが」
それでもというのだ。
「二百年以上も前だ」
「遥かな昔です」
「やはり合衆国建国前です」
「その様な時の戦争で役に立とうとも」
「今は」
「最早骨董品だ」
これがペリーの日本の大砲への評価だった。
「よくもまだ使っていたものだ」
「そうですね、それにこの国の人間は気付かなかった」
「長い間」
「使わなかったからこそ」
「気付くことがなかったのですね」
「そういうことだな」
ペリーはその黒船の中で淡々として語った、そして。
その頃幕府の者達はペリーが自分達の大砲を見て驚いたことを思い出してだ、江戸城の中で言っていた。
「何と、我等の大砲はか」
「もう古いのか」
「それもどうしようもないまでに」
「古いのか」
「あの大坂城を陥とすはじまりとなったというのに」
「国崩しであったというのに」
「権現様が使われたものであったのだが」
家康のことがここで話された。
「それでもか」
「古いというのか」
「使いものにならない」
「そうなってしまっていたとは」
「何ということか」
驚きを隠せなかった、彼等も。
そしてだ、こう口々に言うのだった。
「何とかせねばな」
「うむ、このままではな」
「あの者達に何をされるかわからないぞ」
このことを本能的に悟ったのだ、先の清と欧州列強の戦争のことも聞いていてそのことからも言うのだった。
「早いうちにな」
「何とかせねば」
「新しい砲に替えるか」
「大急ぎでな」
「砲だけではないか」
「これは急がねばならん」
幕府の中に焦燥すら走った、そして。
それは天下に及んだ、ここから大きなうねりになっていくのだった。
使わない兵器 完
2015・1・15
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