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剣を捨てて
第八章

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「私は軍人でなくなる」
「奥方となるからだな」
「だからだな」
「そうだ、私は軍人だ」
 誇りを持っての言葉だった。
「剣に生き剣に死ぬのだ」
「その軍人でなくなる」
「そのことはか」
「考えられない」 
 到底、という言葉だった。
「だからだ、結ばれていいのだろうか」
「難しい話だな」
「それはまた」
「そうだ、やはり私は女だ」
 これまでも常に自覚していたことだが今は余計にだった、ライズは自分がそうであることを強く自覚していた。
「女は妻になればだ」
「剣を持っていられない」
「そういうことか」
「そうだ、私はどうすればいいのだ」
 妻になるべきか、軍人でいるべきなのか。
「それがわからない」
「全くか」
「それがわからないのか」
「そうだ、本当にどうすればいいのだ」 
 悩み苦しんでいる言葉だった。
「一体」
「難しい話だ、しかしだ」
「そのこともだな」
「卿は決断しないとならない」
 何があろうともというのだ。
「このことについてもな」
「やはりそうか」
「少なくとも卿は今は軍人だな」
「うむ」
「軍人ならばだ」
「決断を即座に下さないとならない」
「自分自身でな」
 命令に従うことも軍人だ、しかし士官ともなれば己で決断を下さねばならないということもあるというのだ。
「だからだ」
「このこともか」
「卿が自分で考えてだ」
「自分で決めることか」
「そうしなければならない」
 絶対に、というのだ。
「卿自身でな」
「難しいことだな」
「卿の言葉には思えないが」
 冷静かつ的確にだ、常に判断を下すのがライズだ。それで同僚も言ったのだ。
「今の言葉は」
「そうか、しかしな」
「今はか」
「どうすべきか悩んでいる」
 そうだというのだ。
「若し結ばれるとなると」
「軍を辞めないとならないからだな」
「私はミュッケンベルガー家の娘だ」 
「代々軍人のな」
「当主は全て将軍になっている」
 それだけの武門の家だからだというのだ。
「その家の娘だ、だからだ」
「軍人でなくなることはか」
「苦しい」
 ライズの偽らざる本音だった、この言葉こそが。
「だからどうすべきか」
「悩んでいるのだな」
「それ故にな」
「そうだな、しかしだ」
「決断を下さなくてはならないな」
「卿自身でな」
「そうだな、結局は」
 全ては自分自身のことだとだ、ライズもわかっていた。それで同僚に対してこうも言ったのである。それでだった。
 ライズは縛らくの間考え抜いた、そして。
 ある日だ、グレゴリーを都の大聖堂の礼拝堂に呼び出してだ、厳かな趣の中で彼に対してこう言ったのだった。
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