明日への翼
04 RHAPSODY
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って仙太郎と約束したから。
「確かに六年前って言ったら小学生だし、そのお姉さんが母国に帰るなら従うしかないわよね……六年間……ずっとか」
洋子はどこか憑き物が落ちたような顔をしていた。
「スクルドは仙太郎に逢いたくて一人で母国から出てきたんだ」
かなわないなぁ……。
小さく呟いていた。
「ほんとはね、わかってたんだ。自分がピエロのドンキホーテなんだって。でも、どこかでこの気持ちをぶつけないと治まらなかったんだ。ぶつけてみっともなく泣き叫んで、仙太郎を取らないでって──でも、なんか出来なくなった。へんだね、私こんなキャラじゃないのに」
こんなにペラペラ自分のことを喋ったりしないのに。いつもは。
「なんかこれで吹っ切れた気がする」
でも、やっぱりスクルドはずるいよ。
「洋子……」
「うん?」
「あたしがこんなこと言ってはいけないのかもしれないけど……」
「ん?なに」
「「辛かったことも苦しかったこともいつか思い出になる。それはいつか支えとなり、糧となり道しるべとなる」あたしのお姉様の言葉よ」
「うん……わかってる……わかってる、だから、大丈夫」
自分に言い聞かせているようだった。
洋子はスクルドを見詰めていた。
静かな瞳だった。
怒りでも悲しみでも憤りでもない。
恋敵にこんな台詞を向けられたら、いつもの洋子なら憤って平手打ちのひとつでも出ていたはずだ。
これが現在のスクルドの「一級神としての格」であろう。
「不思議な人ね。まるで女神様みたい」
姉のベルダンディーなら自分の正体を明かしてしまうところだろうけれど。
スクルドは曖昧に笑って見せただけだった。
洋子は背中を見せた。
肩越しに軽く手を振る。
じゃね。
思わず呼び止めた。
「友達に……」
「ならないよ。私、なれ合うのは嫌いなんだ。あんたの事もね」
拒絶の背中。
スクルドはそっと息をついた。
今すぐには無理か。
でもいつかきっと。
夜になって雨が降った。
梅雨の降り方ではなくまるで降雨期の熱帯のようだった。
あけて翌日。他力本願寺。
雨が去り、青空に夏の雲が白く浮かんでいる。
恵はシフトで今日は休みだった。
買い物でも行こうか。
大きく伸びをしてあくびをした。
もう何十年もつきあって身体の一部となっている愛車を車庫から引き出した。
雨上がりの風の向こうから視線を感じた。
首をめぐらせた。
正面の大きな山門の下に佇む、大きい人影と小さい人影が二つ。
「あ……」
「久しぶりね。恵」
流れるような銀髪。あの時と少しも変わらない姿で褐色の二級神は微笑んでいた。
傍らに立つ少女。
漆黒の髪を赤いリボンでツインテールに纏めていた。歳の頃は六歳〜七歳ぐ
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