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豹頭王異伝
曙光
従者と侍女
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は大丈夫だよ。
 そんな事はどうでも良いから、早く、アモンをやっつけてくれ」

 駄々っ子の様に騒ぎ立てる闇の司祭、ドール教団の最高導師グラチウス。
 物騒な光を浮かべ掛けた瞳が煌き、グインは笑いを噛み殺した。

「まあ待て、次だ。
 ゴーラの宰相、カメロン殿と話をせねばならぬ。
 サイロンと同様、パロの魔道師が派遣されている筈だ。
 或いは宰相カメロン殿の許ではなく、アムネリス王妃の許かもしれぬがな。
 本来ならば闇の司祭に聞かれる等、以ての外と言いたい所だが。
 已むを得ぬ、大目に見てやる。
 アルセイス、いや、ゴーラの新都イシュタールと心話を繋いでくれ。
 それとも先刻までの遠距離心話で遂に、魔力を使い果たしてしまったかな?」

 豹頭王は黄金と黒玉の毛並み、髭1本も震わせる事無く鉄面皮で放言。
 闇黒の髑髏が憤怒の表情を昇らせ、深紅に染まる。

「何を言うか!
 グラチウス様が魔力を使い果たす等、ある訳ゃ無いわい!!
 わしの広大無辺なる神の眼、時空を超越する遠隔視の奇蹟《ミラクル》。
 千里眼《クレアボワイヤンス》の秘術を用いれば、造作も無き事よ。

 人使いの荒い豹だ、なんて横暴な奴じゃ!
 特別に披露してやるから、有難く思うが良いぞ。
 ふむ、カメロンの寝室に魔道師の波動は無いな。
 王妃の寝室を覗くのは気が引けるが、わしが見たいと思った訳ではないぞ。
 光の公女から苦情《クレーム》を付けられでもしたら、かなわん。
 王の要望に従った、それだけの事なんじゃからな!」

 黄金に黒玉の戦士、豹頭王グインは鉄面皮を崩さぬ。
 髭が微かに震え、哄笑の衝動を雄弁に語った。
「一々、横言を言うな。
 それでも世界三大魔道師の一人、齢800を越える伝説の大魔道師なのか。
 喧しい。古代生物を名乗る淫魔と同じではないか。
 全く、剽軽な奴だ」

 真紅に染まった髑髏が紫色《パープル》、空青色《スカイ・ブルー》に変化。
 変色龍《カメレオン》の如く顔色を変え、水晶の髑髏《クリスタル・スカル》に変化。

「816歳、だと思ったがね。
 何時も心は十六歳じゃよ、ヒョヒョヒョヒョヒョ。
 あぁ、やっと見つけた。
 あんまり弱い魔力なんで、よう見えなんだ。
 余りに御粗末と言うか緩い結界じゃで、気が付かんかったよ。
 いや、そうでもないか。
 一人前に、気配を消しておるのだな。
 ほら、こやつだよ」

 映像の中には健康な寝息を立てる赤子、添い寝する豪華な金髪の女性が見える。
 寝室の角に闇が渦巻き、魔道師が現れた。
 イーラ湖畔の森に居るグインの眼に視線を合わせ、拝礼。
 滑らかに唇が動き、流暢に言葉を紡ぎ出す。

「初めて御目に掛かります、ケイロニアの豹頭王
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