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豹頭王異伝
薄明
心の鍵
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ぬだろうからね」

「てめぇで、てめぇの腹を刺しちまったのかよ!
 くそったれめ、これから面白くなるってのに。
 わかった、奴等を言い包めるから痛み止めをしてくれ。
 このままじゃ、何も出来やしねぇ」

「これを飲むと良い、動く事は出来ないが多少は痛みを抑えられる。
 効いている時間は1ザン弱だ、其の間に手を打たなくては」
 魔の胞子を植え付けられた犠牲者、ベック公程ではないが。
 ゴーラ王の忠実な副官は表情が虚ろな儘で、妙に反応が鈍い。

 ナリスの思考を読み取り、ヴァレリウスが強力な暗示波を投射。
 元オルニウス号の掌帆長、マルコ本来の声が響いた。
「イシュト、私から皆に説明して良いですね?
 他に怪我をした者は皆無ですが、納得させて見せます!」

「うるせぇ、でかい声を出すな。
 傷に、響くんだよ。
 心配すんな、俺は死なねぇ。
 痛み止めの薬が切れちまう前に、頭立った者を集めろ」

 ヴァレリウスの念波が飛び、上級魔道師に中継され野営地の全域に伝播。
 下級魔道師達は揺り起こした者の思考を読み、ゴーラ軍の隊長を識別。
 ナリスの指示に従い、最高指揮官の天幕に集めるが。
 不良少年上がりの暴れん坊達も、マルコ同様に精気を欠いていた。

 イシュトヴァーンの負傷は非常な動揺、混乱を捲き起こす筈であったが。
 新生ゴーラの若き将軍達は覇気が無く、見境無く吼え捲る者もおらぬ。
 ヨナも眉を顰めるが、ゴーラ王の一喝を浴び彼等は条件反射で首を竦めた。
 魔戦士は傷の痛みに気を取られ、部下の異変に気付かず一気に喋った。

「敵の魔道師が寝込みを襲いやがって、不覚を取っちまった。
 俺が負傷したと嗅ぎ付けられちまうと面倒だ、うろたえるんじゃねぇぞ!
 今夜はもう何も起こらねぇ、朝まで寝てろ。
 マルコの指示は俺の命令だ、黙って従ってりゃ間違いねぇ。
 部下共を騒がせるなよ、解散!」

 隊長達は一言も発せず、うなだれた儘で顔を上げようともしないが。
 イシュトヴァーンは彼等の沈黙に満足して、天幕から追い出した。
 ヴァレリウスの念波が再び中継され、野営地の全域に波及。
 ゴーラ王の言葉は全軍に行き渡り、静寂が満ちた。


「助かったよ、イシュト。
 大変失礼だが、催眠術で見せられた悪夢の内容を教えて貰えないか?
 言いたくなければ、無理には聞かない。
 だが今回の攻撃が有効と敵が判断すれば、今後も同様の攻撃が繰り返される。
 ゴーラ王も負傷した有効な手口を、敵が繰り返さない保証は無い。
 常に最悪の状況を想定して、対策を講じなければ危険だ。
 親愛なるイシュト、そなたならば理解して貰えると思うのだがね」

「…条件がある。
 他の奴には、黙っててくれるか?
 
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