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豹頭王異伝
薄明
悪夢の襲来
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から声紋、魂を識別する紋様《パターン》が刻まれる。
 彼等と共に冥府に下る契約書への、著名捺印《サイン》となる。

 怨霊達を罵り、追い払ってしまいたい衝動を。
 懸命に堪え、死に物狂いで耐え続けた。
 ナリスから聞かされた伝説の地、グル・ヌーの光景が鮮やかに甦る。
 白骨化以前の聖地は、此の様な物だったのだろうか。

 彼は不意に、気付いた。
 徐々に、身体が下がって来ている。
 眼下を埋め尽くす亡者達に、近付いている。
 妄執と恨みの念が、歓喜となって噴上げている。

 もうすぐだ。
 イシュトが、俺達の手に入る。
 俺達に謂れの無い苦痛と死を齎した、死神の手先が此処に来る。
 自らの手で引き摺り下ろし、俺達と同じ苦痛を味わわせてやれる。

 堪え切れなかった。
 恐怖と絶望。
 思わず絶叫し、罵倒する。
 同時に、悟った。

 落ちる。
 逃れる術は、無い。
 身体を支えていた何かが、失せた。
 石の様に、身体が落下する。

 みるみる、亡霊達が近付く。
 彼を迎え入れようと、頭上に伸び上がる。
 過去の悪行を清算する運命の刻、贖罪の瞬間が訪れた。
 永劫の破滅から、逃れる手段は無い。


「助けてくれ、グイン!
 カメロン、俺が悪かった!!」
 一瞬で眼下の景色が切り替わり、無数の亡霊が失せた。
 何時の間にか、落下が停止している。

 空中に吊り下げられたまま、イシュトヴァーンは。
 眼下に広がる穏やかな光景を、呆けた様に眺めた。
 艶やかな黒髪、優しい漆黒の瞳。
 まだ少女とも思える小柄な身体、年若い女性の姿。

 胸に抱いているのは、自分に生き写しの幼児。
 燃え盛る炎を秘めた黒い瞳、強烈な光を映す風雲児の貌。
 不意に、幼子が頭上を見上げた。
 イシュトヴァーンは頭の奥底に、強い衝撃を覚えた。

 感覚が擾乱する。
 五感が捻れ、全てが二重に感じられる。
 空中浮揚している自分、若い女性に抱かれる幼児の五感が同時に感じられる。
 忘れていた脾腹の激痛が不意に、彼を貫いた。


 同時刻、パロを遠く離れた湖畔に建つ粗末な小屋。

 黒髪黒瞳の幼児が、火の付いた様に泣き出した。
「どうしたの、イシュトヴァーン?」
 嘗て光の公女に仕えたお気に入りの侍女、フロリーが幼子を抱き上げる。
 幼子が力一杯、母親にしがみ付く。

「何も、怖い事は無いのよ。
 母様が、護ってあげる」
 如何なる理由に拠るものか。
 2人の間に、遠隔感応が生じていた。

 フロリーに抱きしめられる幼児、スーティ。
 夢の回廊に囚われ、己の手で脾腹を突いたゴーラの冷酷王。
 同名の2人、イシュトヴァーンの感覚が共有される。
 暖かい感触を身
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