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豹頭王異伝
薄明
波及効果
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きで膝を付いた。
 慎重に長剣を引き抜き傷口、脇腹に掌を当て《治癒の光》を貼る。
 スカールの付けた傷跡が眼を引く浅黒い顔は、血の気が引き蒼白となっている。
 イシュトヴァーンは固く眼を閉ざし、表情は罪の意識に苛まれる男の様に険しい。

 ヨナが魔道師に掌を差し伸べ、思考の送信を要求。
 反対側の掌が動き、ナリスに接触心話を中継。
 奔流の様に釈明、動転する思考が流れ込む。
 数タル後ヴァレリウス、ナリスの面から漸く動転の色が薄れて消えた。

 ヴァラキア出身のヨナは同郷の船乗り、マルコに言葉を掛けたが。
 カメロンの腹心は何故か、反応が鈍く眼が虚ろの儘。
 ヴァレリウスが記憶を読み取り、状況が判明。
 何時の間にか異様な睡魔に襲われ、夢の回廊に引き込まれていた。

 イシュトヴァーンの軍勢も濃霧に襲われ、白蓮の粉を大量に吸っている。
 ケイロニア軍、パロ聖騎士団、カラヴィア軍と条件は同じ。
 ロルカに遠隔心話が飛び、半数の魔道師に急行を命令。
 ゴーラ軍の野営地に呼び寄せ、全将兵を叩き起こす。

(見掛けは派手ですが、心配は要りません。
 治癒の光も要らない位です、大丈夫ですよ)
 ヴァレリウスは冷静を装い、ナリスに接触心話を送信。
 ゴーラ王の額に掌を当て、慎重に記憶の解析を試みる。

(精神測定の術を用い、記憶を辿ってみましょう。
 夢の内容を復元すれば、何が生じたのか解るかもしれません)
 ナリスは無駄口を叩かず、神妙な面持を崩さぬ。
 ヴァレリウスの読み取った記憶が、接触心話を通じ脳裏に流れ込んで来る。

 ゴーラ王は懸命に隠していたが、心理的な衝撃は甚大であった。
 巨大な竜は無力化され、再び襲われる事は無さそうだが。
 物質的な破壊力は皆無の催眠術と異なり、凄絶の一言に尽きた。
 敵は強大な黒魔道を操り、次に繰り出す術は更に想像を超えるのではないか?

 緊張の域を超え怯えていた、と言っても良かったかも知れない。
 顔には出していなかったものの、憂慮し神経を張り詰めさせていた。
 元々は港町ヴァラキアに生まれ育ち、船乗りの気質に馴染んだ紅の傭兵。
 ヴァラキアのイシュトヴァーンは結構、迷信深い処も残している。

 魔戦士の名は、伊達では無い。
 ヨツンヘイムを訪れ、クリームヒルドの好意で軍資金を得る以前にも。
 タルーアンの女戦士と出会い、異次元の魔怪クラーケンを実見している。
 南の海では黒い伯爵ラドゥ・グレイ、ブードゥーの呪術師とも関わった。

 イシュトヴァーンは、災いを呼ぶ男の異名を持つ。
 実は、密かに、気に病んでいた。
 ゴーラ軍の陣中に、己が黒魔道の化物を呼び込んでしまうのではないか?
 彼としては、ナリスに総てを任せる他に打つ手は無か
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