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根上碧海さんは魔王になりたい!
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 第全章「TRPG」

 可愛い女の子との出会いや、その他諸々の無駄な期待をしていた下らない春という罪な季節があっという間に通り過ぎ、夏というただ単に「馬鹿」みたいな、暑いだけで何も意味を持たない糞っ食らえの季節もなんとか終わり、ようやく心落ち着く秋という、食べ物も、スポーツも、普段は薄い本ですら目も通さない人間も、児童書とはいえ、総計二百八十ページの分厚い本もあっさり読めてしまい、普段は全く意味が分からない、幼稚園児の落書きみたいな絵を芸術だと感じる素晴らしい季節、秋に入った頃の話、いつも喧しいくらいの教室が妙に静かだったあの日の放課後、一緒に宿題を終わらしてから返しましょうだなんて言ってきた、これから家に帰ってゲームまっしぐらの自分にとっては、色々な意味で可愛くない幼馴染が隣の座席でぽつりと呟いた。
「――TRPG」
「TRPG?」
 その人は短く、肩にかかるくらいの、僅かに茶がかかったダークブラウンの髪をいじりながら、現代の女子高生ならぬ言葉を再度呟く。
「そう、TRPG」
「はあ」
 適当に相槌を打って、宿題に戻る。
「TRPG!」
 知りません、お一人でお調べになったらどうですか?なんて言えれば、どんなに楽だろうか。普通の高校生、萩島夕摩こと、自分、萩島は内心でその事を嘆きながら、
「叫ぶんじゃあない、うるさいじゃないか」
 とつっけんどんに返した、宿題に今いち理解できない問題があって、歯に何か物が挟まったみたいな気分だったのだ。そんな萩島の態度に、隣の座席で頭につけたオシャマな白いリボンをいじくりながら、彼女は、
「――くびり殺すわよ?」
 だそうで、萩島は焦った。何せ彼女は幼い頃より古武術を習っていて、そりゃもう、相当に強かったからだ。その為、男で幼馴染と言う立場に居た萩島は身を以って彼女の暴力を知っていた。
「やめてくださいよぉ〜、また骨の二・三本いっちゃうじゃないですかあ〜」
 と、間抜け口調で返すと、
「――本気でやられたいの、相手がアンタだし、手加減は一切無いわよ?」
 という、ありがたいお言葉が帰って来たので、萩島は途端に真剣な口調になる。
「冗談だよ、冗談、大体、TRPGってどんなゲームか知ってるのか?」
 TRPGとは1974年、アメリカのゲイリーガイギャックスという人によって製作された「D&D(通称Dungeons&Dragons)」から始まった由緒正しいボードゲームのようなものだ。プレイヤーはゲームを進行する人を含め、四人以上が好ましいらしい。漫画を読んで気になり、インターネットでたどり着いた、ウィキペディア受け売りの事しか知らない萩島には詳しい事は分からないが、とにかく、そういうゲームらしい。
「――知らない、かな?とりあえず、進行方法は分かってるわ」
「ほほう、それじゃあ話は早い
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