薄明
鍵を握る者
[3/4]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
て、一昨日も不寝番を務めたがね。
寝顔を拝見させて貰ったが、全然、飽きなかったよ」
運命共同体、背後を守る者と言われて喜ぶかと思っていたが。
イシュトヴァーンの浅黒い顔には何故か、不安と猜疑の色が見える。
「何だよ、ずっと俺の寝顔を見てたのかよ?
趣味、悪いぜ」
暫く逡巡してから冷酷王の雷名に全く似合わぬ、躊躇する内心を繕う余裕も無く口を開いた。
ゴーラの僭王が見せるとは誰にも想像し得ぬであろう、頼り無い幼子の表情《かお》。
「俺、寝ている間に何か言ってなかったか?
別に隠し事なんか無ぇんだが、夢の中で大法螺を吹いた気がしてな!」
腹心のマルコにも見せぬ率直な問いに、ナリスが微笑む。
ヴァレリウスを苛める時、頻繁に顔を出す悪戯っ子の表情が露出。
聞かれもしないのに、自分から隠し事は無いと言い出す理由は只一つ。
人に聞かれたくない秘密、隠し事がある事を隠そうとしているに違いない。
「何か心配事が有るのだね、顔に書いてあるよ?
悪い夢でも見て魘され、寝言で何か口走ったのではないかと不安なのかな。
重大な機密事項を洩らしてしまった、と危惧しているのだね?
我々の様に壮大な野望を抱く冒険児、小暗い野望に胸を焦がす野心家には良く有る事だよ」
初歩的な推理を働かせ親友の言動を分析、精神誘導の術を選択する魔道大公。
アルド・ナリスは精神を対象とする魔道学に精通、初級魔道師の免状を持つ。
「こん畜生め、図星だぜ!
子供じゃねぇんだからさ、そんな事言ってからかうなよ!!」
イシュトヴァーンは思わず噴き出し、多少は吹っ切れたらしい。
霧が晴れる様に逡巡を拭い去り、表情が一気に明るくなった。
憮然とした表情で魔性の主と魔戦士を見守り、無言の行を貫く魔道師の守護者。
心話で余計な口を挟めば後で数倍の返礼、性悪な仕返しをされる事請け合いである。
「俺さ、良く、うなされるんだよ。
夢ん中で、しょっちゅう嫌な場面が出てくるんだ。
その度に、大声を出して飛び起きるんだよ。
冷や汗、びっしょりでさ。
身体中、震えが止まらねえんだ。
脂汗、なのかな。
何が何だか全然、分からないけど凄く怖い。
俺が悪いんじゃねえのに何もかもが皆、俺の責任にされちまってる。
亡者共が俺に群がってくるんだけど、誰も助けてくれない。
そんな夢なんだ」
イシュトヴァーンの表情が曇り、痛々しい幼子の顔に変わる。
魔戦士に批判的な魔道師、ヴァレリウスも思わず同情の念を覚えた。
「大丈夫だよ、イシュト。
そなたの側には常に魂の似姿、運命共同体の私が居る。
一時は私も似た様な思いを繰り返し味わい、眠れぬ夜を過ごして来た。
他の者には分かるまいが心配は
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ