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豹頭王異伝
薄明
鍵を握る者
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為には、ケイロニア軍が進攻する必要は無い。
 俺が黒魔道師を倒せば済む話だ、一気に決着を付ける方が良いかもしれぬ。
 状況次第では単身、クリスタル・パレスに乗り込む事も考えている」

 大真面目な貌で、とんでもない事を言い出す冒険児。
 ヴァレリウスは意表を突かれ、うろたえた声を挙げた。
「そんな事、させられませんよ!
 王陛下の身に万一の事があっては、我々はアキレウス大帝に何と言えば良いですか!?」
 白魔道師軍団の実戦部隊を統括する最高指揮官、パロ最強の魔道師も些か修行が足りない。
 ナリスは対照的に、さも当然の様に言葉を継いだ。
「貴方ならやってのけるかもしれませんね、豹頭のグイン。
 中原を襲う血の濁流を払う為、私も北の王に同行させていただけますか?」

 ナリスは顔色を買え、何事か絶叫しかけた上級魔道師を強い瞳の光で制止。
 強い決意の籠る口調に失言を悟り、ヴァレリウスの顔から血の気が引く。
「いや、スカール殿の容態は一刻を争う様だ。
 先程の予定通り、太子殿の治療を優先するべきだろう。
 大導師アグリッパの言葉も有るが俺も常々、彼とは対面してみたいと思っていた。
 明日夕暮れまで黒魔道の攻撃を退け、スカール殿の合流を待とう。
 奇怪な黒魔道を操る魔王子アモンの力量も読めておらぬ故、無理押しの強行軍は避けたい。
 3人が揃い力の場を形成した上で、クリスタル攻めに向かう方が得策だろう」


「おはよう、もう夕刻かな?
 イシュトのお蔭で、快適に睡眠を取らせて貰った。
 寝る子は育つ、と云うが本当だな。
 使い物にならなかった身体も、徐々に動かせる様になって来た。

 マルガ離宮に居れば私を慕う者達が訪れ、充分な睡眠を摂れなかっただろう。
 申し訳無いが、パロの民を遮断してくれたのは貴方だからね。
 ゴーラ軍の人質を装う事で、雑務も総て他の者に押し付ける事が出来た。
 心の底から感謝しているよ、イシュトヴァーン。

 昨日は、ゾンビーの対応で一睡もしていないのだろう?
 今日も黒魔道の濃霧、巨大な竜の出現で緊張し続けている。
 ゴーラ軍の最高指揮官には負担が集中し重大な誤判断を犯す危険があった。
 夜の間は私が見張っているから、充分な睡眠を取った方が良い。

 そなたと私は互いに背中を預け、敵の集団と戦う2人の戦士の様なものだ。
 互いを信頼し合っていればこそ、安心して背中を預けて目の前の敵に集中できる。
 我々は、運命共同体だからね。
 イシュトが太陽《ルアー》で、私が月《イリス》だ。

 昼はそなたが指揮を執り、私の拙い頭脳が必要になれば私を起こす。
 夜は私が眼を光らせて、何らかの突発事態が発生すれば即座にそなたを目覚めさせる。
 イシュトの背後を守る者とし
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