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AlFe
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(見張り番!先ほど王子が外に出て行ったように見えたが、もしや貴様、王子を通しておるまいなっ!)」
 王子を自ら逃がした事を思い出しながら、兵士長は出来る限り嘘がばれないように、そして大臣の真っ赤な顔と慌てように、思わず笑い出しそうな声を必死に押さえつけ、壊れたパイプオルガンのような低い声で言った。
「(いいえ、王子はここを通っておりません、ひょっとすると王族だけが使えるという抜け道から出て行ったのでは?)」
「(なんと!では王子はもう・・・)」
 大臣が目を丸くするのを見て、更に吹き出しそうになりながら、兵士長は答えた。
「(ええ――おそらくはもう、外へ出てしまったでしょうね、大臣が私とおしゃべりを楽しんでいる間に)」


「はあっ、はあっ、はあっ・・(良し!あと少しであの森だ!!)」
 アルは灰色の城を背に、大きな草原を走っていた、少し黄色がかかった草わらがそよ風を受けて靡く、とても美しい草原だった。群青色のズボンから突き出した、きらきらと眩い銀色の脚が足首ほどの長さの草を踏み潰し、体中から聞こえてくる小さな歯車が動く音が聞こえる。耳を澄ませば、その機械の音以外にも、秋の虫達が羽ばたく天然の楽器の音や、小さな草食動物たちが大地を跳ね回る音が聞こえてくる。
 草原を駆け抜けながら、アルは思う、あの陰気臭く、全てが鋼鉄で出来た非自然的な造りの城を出て、こんな広くて綺麗な場所に住めたらどれほど良いだろうか、毎朝、黄金の太陽と共に目覚め、朝食の準備をしに外に出て、小動物たちと戯れ、昼はゆっくり読書をしながら木苺の葉で作った紅茶を楽しみ、夜は暖かな炎で作られた質素な夕食をとり、木で作った楽器を虫達と共に奏で、歌を歌い、疲れたら柔らかな闇に抱かれて眠る。勿論、小さな窓を天井にでもこしらえて、表情を毎日変える月を仰ぎながら。
 しかし、現実とは残酷なもので、この小さな少年のささやかな願いは叶うはずもなく、ただただ、現実をより苦しいものに変えているだけだ。少年がいくら願っても、毎朝の魔法の訓練や剣術の稽古は続くし、ゆくゆくはかつて存在していた他の四つの国を全て焦土と化した鉄の国の王とならなければならないのだから。
 しかし、それがまたこの少年を突き動かしているのも真実であり、それは恐らく、必要な事なのだ。そう、この少年が自分の身の振り方を決める為に。

 アルは遠くの方に見える緑一色の森を目指して、更に走る速度を上げた。きっと今アルが走っている姿を普通の人間が見れば驚いたであろう、アルは人間ではとても追いつけないような速さで草原を駆けていたのだから。

 ビュウビュウと風が耳元で唸り、体中から聞こえてくる機械の動く音もせわしなくなってきた頃、アルはその森まで後少しというところまで来ていた。
「(早く!早くあの森に行きたい!)」
 走りな
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