第三章
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「好きなんだ、俺」
「私を・・・・・・」
「そう、だから」
「いや、それは」
私は咄嗟に言った。
「それはないから」
「ないって」
「その言葉は聞かなかったから」
彼にではない、自分に言い聞かせた言葉だ。
「全然」
「それじゃあ」
「言葉はいらないから」
ついつい出てしまった、この言葉を。
「聞かなかったから」
「それって一体」
「聞くと怖いのよ」
もっと言えばだ、言うことがだ。
「だからね」
「言うなっていうんだ」
「言わなくていいから」
また言った私だった。
「私はそんなのいいの」
「ええと、俺ってやっぱり」
彼は私の言葉を聞いて顔を青くさせて言った。
「何ていうか」
「・・・・・・・・・」
私は言うのが怖かった、だから。
言わなかった、けれど彼に私の気持ちつまり返事を伝えないといけないことはわかっていた。それでだった。
自分から手を出してだ、彼の手を握ってだった。
そうしてだ、こう言った。
「行こう」
「えっ・・・・・・」
「言葉は聞かなかったし取り消して欲しいけれど」
それだけはだった、怖くて仕方なくて。
それでだった、彼の手を自分の手で握ってこう返した。
「言わなくていいわよね」
「返事は」
「これでいいわよね」
真剣な顔でだ、彼の目を見て問うた。
「駄目なのかしら」
「いや、それじゃあ」
彼の返事は決まっていた、言葉で駄目なら。
私の手を握り返してくれた、そしてだった。
私達は一緒に屋上を出た、そうしてそれから一緒になった。言葉は怖かったけれど動きでならだった。伝えられた。
そうしてだった、後で彼女にこう言われた。
「よかったわね」
「私が畑君と付き合う様になって」
「ええ、一体どうしてそうなったのよ」
「内緒よ」
くすりと笑ってだ、私は彼女に返した。
「言わないわ、そのことは」
「あんたから言ったの?」
「言ったし言われた言葉は取り消してもらったわ」
「それでどうしてなのよ」
「付き合えたっていうのね」
「そう、どうしてなのよ」
「それも言わないわ、けれど彼とは交際してるから」
このことは間違いないというのだ。
「そのことは確かだから」
「言う必要はないのね」
「そういうことよ」
こう話してだった、私は彼女には何をどうしたかは言わなかった。言うのはどうしても怖くて動きで応えたことを。
キャンセル! 完
2014・7・30
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