3部分:第三章
[8]前話
第三章
「この化け物がですか」
「赤子の泣き声を出していたのですね」
「それでだったのですか」
「左様」
その通りだとだ。呼延賛は村人達に答える。見れば彼も肩や胸の鎧が傷ついている。鎧を着けていなければ危ないところであった。
「その通りだ」
「何故化け物がそんな声を」
「しかもこの名前は」
「何というのでしょうか」
「まず名前から言おう」
呼延賛はここから説明するのだった。
「この化け物の名前は馬腹という」
「馬腹ですか」
「そう言うのですね」
「そして人を食う」
このことも言うのであった。
「山海経という書にある。人を食う化け物なのだ」
「人を食う化け物がですか」
「この山に」
「どうしてこの山に入ったのかはわからん」
それはだというのだ。
「しかしだ。そうした化け物の特徴としてだ」
「赤子の声ですか」
「それですか」
「そういうことだ。人を食う化け物はその鳴き声を出す」
それを聞いてだ。村人達は余計に怪訝な顔になった。そうしてだ。
「人が気になるからですか」
「そしてそこに来たところを」
「食うと」
「そうであろうな」
呼延賛もそうではないかというのであった。
「とにかくだ。こうした化け物は赤子の泣き声を出すのだ」
「左様ですか」
「妙な化け物ですね」
「しかしこの化け物はわしが退治した」
その人の顔を持つ虎を見下ろしての言葉である。化け物は今は恐ろしい断末魔の顔で事切れている。死んでいるのは間違いない。
「だからだ。安心するのだ」
「はい」
「有り難うございます」
「この件は一件落着だ。しかしだ」
呼延賛はここでだ。村人達に真面目な顔で述べるのだった。
「こうした化け物がいることは覚えておくようにな」
「山で赤子の泣き声がしたら」
「それは人を食う化け物の鳴き声ですか」
「山にそうそう赤子はいない」
呼延賛は今度はこの常識を指摘した。
「それも頭の中に入れておいてくれ」
最後にこう話してであった。彼は村人達と別れ宮廷に戻った。宋代初期の話である。正史にはないがこの英傑の話として残っているものである。化け物のこともである。
赤子の声 完
2010・6・4
[8]前話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ