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101番目の舶ィ語
第ニ十話。託された想い
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知る『音央』が消えてしまったとしてもですか?」

……どういう事だ?

「消えるという事がどういう意味なのかはよく解らないけど……俺は『音央』を助けたい」

「解りました……彼女のもとに、案内します」

『神隠し』は俺の手を引いて、村から遠ざかる道を歩き始めた。
その後ろ姿が、背中が、どうしてか悲壮な決意を秘めているように見える。
彼女の手を握り返しながら……今日はよく女の子の手を握る日だな、なんて思いながら彼女についていくと。
彼女が俺を導いた目的地も、また同じ場所だった。

______山の道路脇にある、電話ボックス。
さっきキリカとドキドキイチャイチャした場所だが、今はそこに先客がいた。

あれは……。

「小さい頃の、音央か?」

目の前の電話ボックスの中にツインテールの勝ち気そうな幼女がいた。
自分自身を守るように膝を抱えてじっとしている。

「これは私の記憶です」

『神隠し』が呟き、細めた視線で俺に向かって振り向いた。

「ああやって……ずっと、朝が来るのを待っていたのか」

陽が落ちて、辺りは真っ暗になりつつあった。
周りの灯りは電話ボックスを照らす電灯と、月明かりくらいしかない。

「大好きな担任の先生に渡すプレゼントを買った帰り……プレゼント代ピッタリしかお金を持っていなかった私は、財布の中に一円も入っていませんでした。だから……隣町から、歩いて帰るしかなかったんです」

隣町というのは、月隠市の事か。
夜霞市では手に入らないものも、月隠に行けば手に入るからな。
そして月隠市に行くのには境川を渡るか、境山の山道を向かうしか道はない。

「気がついたら、この道に迷い込んでいました」

ああ、だから迷ったのか。
境山の山道はちょっと複雑で、山越えするルートがいくつかあり、一本間違えると、どんどん深い山の中に入ってしまうからな。
小学生の足で一度別の道に行ってしまったのなら……まだ明るいうちにここまで戻って来た音央の判断は間違ってはいなかっただろうな。

「ああ……もしかして、このラジオって」

俺はDフォンと一緒にポケットに入れていた『三度目の夢のお土産』で渡されたラジオを取り出した。

「はい。結局渡す事が出来なかったプレゼントです」

「え? 何で」

「……担任の先生は、もう…………『神隠し(チェンジリング)』に遭い、消えてしまいました。
いえ。私が消しました」

見ている風景が変わった。
そこは……小学校だった。
小学校の教室。
賑やかな小学校の教室で、子供達が、ワイワイと音央の周りに集まっていた。

「おっと??」

子供の一人がぶつかってきたが、その姿は俺を擦り抜けた。

「記憶の投影です」


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