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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十七話 布石の一謀、布石の一撃
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力は渡河の為に集結中だ、当然、連中の狙いは今の我が軍を叩き、事後の追撃による部隊の拡散を安全なものとする為だ。
第二軍も、近衛総軍も離散した部隊は少なくない、拡散し、追撃し、再集結する前に戦力を削り――」

「虎城を貫き、皇都を掌握する、そうすればこの戦争は終わりですな」
 〈帝国〉将校のような口調で後を引き取った教え子に荻名は頬を攣らせて答えた。
「俺達の望まない通りに、だがな。残置兵などから得た情報によると騎兵部隊も本領の物だ。
おそらく龍口湾で第二軍を蹂躙した騎兵師団は占領地付近の掃討に専念している。猟兵旅団は追撃を担当している師団だ。指揮系統の混乱はない」

「追撃に出ている戦力の総計は?」

「現時点における軍司令部の見解では6万から4万といったところだが、貴様らが相手をするのは2万弱程度だ」
 馬堂中佐は目を細めた。
「後衛戦闘隊の編成はどうなるのです?」

「貴様の聯隊に剣虎兵の第十一大隊、そして西州軍より派兵された独立第一〇四銃兵大隊を加える。
おおよそ四千五百程度だな」

 豊久の目に一瞬だが、鋭角の光が走った。
「失礼ですがよもや北領の再現でも考え「貴様、俺を馬鹿とでも思っているのか?」」
 荻名は剣呑な口調で豊久の言葉を遮った。
「いいか、この伏龍川をこえると弓野までただ只管に内王道が平野を通っているだけだ。
ここで叩かねば弓野まで我々追い回され、叩かれ続けられる事になる」
 弓野は虎城の目の前と言ってもいい。つまりは――耐えきれない、そういう事だ。
「……」

「近衛は、泉川の救援を行う、そうなればこれまで吸引されていた五万の兵共も我々を追い回しに来る、泉川では龍兵の投入も確認されている、いいか、もう間もなく潮目がより悪くなる、砂粒の最後の一つが落ちる寸前なのは理解しているだろう」
 今度は荻名が射るような視線を教え子に向けた。

「胸糞悪いことに分りますよ――北領の戦争だ、これは」

「独立混成聯隊はその本分を果たすべきだ。北領から戻ってきた貴様もな…こうやっている間にも<帝国>軍は迫っている。――馬堂」

「はっ」

「貴様は一時的ではあるが旅団規模を率いる事になる」
 荻名は唇を引き結び、言葉を継いだ。
「であるからには相応の権限を与える必要がある。
必要であれば俺の名前をだせ、俺が作戦指導を行う」
 荻名は唇を歪め、笑みらしきものを作り出し言った
「俺の手柄の為にも貴様には働いてもらうぞ」

「了解しました、戦務主任参謀殿」




同日 午後第二刻 龍岡市より西方約三十五里 南方五里
独立混成第十四聯隊 聯隊鉄虎大隊 第四中隊戦務幕僚 西田中尉


 じりじりと蒼天の下にある何もかもを焼こうとするような灼熱の陽光、そしてなだら
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