暁 〜小説投稿サイト〜
蒼き夢の果てに
第6章 流されて異界
第115話 守り切れ!
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〜む、この試合開始前までにハルヒが相手に対して与えた四死球はゼロ。……と言うか、この回までずっとゼロ。それがこの回だけで既に二つ。
 確かに六番はそれなりのバッターだと思いますが、八番は……。それに良く考えて見ると、この回のハルヒの投げる球はヤケに右バッターのアウトローが多いような気がするのですが……。
 困った時のアウトロー、と言う言葉も有りますが、それにしても多すぎるし、更に、場面的に考えると、カウントを悪くして投げる球に窮して居るような場面でもないと思うのですが……。

「タイムお願い出来ますか?」

 一塁ベンチより立ち上がった野球帽を被る少女……ではなく、このクラスの担任、甲斐綾乃が主審に対してそう問い掛ける。次のバッターはここまで二打数二安打、打点が三と言う、エースで九番の自称リチャードくん。ハルケギニア世界では自らの事を名づけざられし者だと自称した人物だけに、このピンチは流石に黙って見つめ続ける事が出来なかったのでしょう。
 主審によりタイムが宣告され、ゆっくりとした足取りでマウンド上のハルヒに歩み寄る綾乃さん。そして、その彼女と同じようにマウンドに集まる内野手たち。尚、有希は兎も角、俺が呼んだ訳でもないのに、万結も同じように集まって来たのには、軽い驚きが有ったのですが……。

「どうしたの、涼宮さん。もう疲れたかしら?」

 身長から言うとハルヒとほぼ変わらず。成人女性としてはやや小柄な綾乃さんの問い掛け。確かにここまで結構の球数を投げて来たので、多少疲れが有ったとしても不思議ではないのですが……。

「いえ、別に疲れた訳ではないのですが……」

 俺に対する時とはまったくの別人。礼儀正しい優等生の仮面を被ったハルヒが言葉を濁す。
 そう答えてから、マウンドの上から見下ろしていた綾乃さんから、俺の方向へと視線を移す。
 そうして、

「ひとつ教えて貰いたいんだけど……」

 何やら殊勝な態度で問い掛けて来るハルヒ。
 綾乃さんの前故に、このような態度なのでしょうが……。

「なんで、二回の裏の最後の球が投げられないのよ」

 三回が始まってからずっと試して居るのに、あの球が投げられないのは何で?

 ………………。
 …………。
 マウンド付近に集まった皆の間を、妙に冷たい冬の風が吹き抜けて行く。もしかすると、これは六甲から吹き下ろして来る風かも知れない。
 かなり場違いな感想が、少し空いて仕舞った間を埋めるかのように脳裏に浮かんで、直ぐに消えた。

 しかし――
 ――前言撤回。コイツ、まったく殊勝でも何でもない。要は、自分の思い描いた球が投げられなくてイライラとしていた、……と言う事なのでしょう。
 その挙句に安牌相手にフォアボールを出してピンチを広げるって……。


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