第三話
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いていった。
「…なっ!止めろ!己れ…!」
金久は影達をどうにか引き剥がそうとしたが、手は影に触れるどころか空を切る様にすり抜ける。だが、重さだけは確かに感じている。
「や…止めろ!!」
だが叫べども、影達は尚も金久を覆うようにのし掛かり、到頭金久は堪えきれずに床へと倒れ込んだ。
そうして、彼は今まで体験したことのない根本的な恐怖を味わわされた。それは影達…実験台にされた人達が体験した“死の瞬間"を体験させられたのだ。
「あ…ああ…ぐあぁぁぁ!」
怒り…哀しみ…憎悪…淋しさ…そして、未練…。その多くの死の刹那は、金久を絶望させるには充分だった。
「どうだい?人間の命は道具かい?」
影達が消え去った後、ロレは三人前に立って再び問った。三人はガタガタと震えてながら「いいえ…。」と、か細い声で答えるのがやっとになっていた。
「人はいずれ死ぬ。お前達も例外じゃあない。奪う者は奪われる。だが、私は命を奪うことはない。だから、お前達のこれからの“時間"を奪うことにする。」
ロレがそう言うと途端に三人の体から感覚が無くなり、その場に倒れたまま動けなくなった。
「見ることも出来、聞くことも出来、思考することも出来る。だが、語ることと体を動かすことは出来ない。お前達が心から反省し天の君から許されたなら、その体は元へと戻るだろう。だが、自身と天の君を騙すことは出来ない。私はこれでも足りないと思うが、人の一生なぞ百年足らずだからな…。」
ロレがそう言った時、彼の隣にフッと赤毛の男が現れた。メフィストだ。
「ロレ、向こうは片付いた。本当にこれで良かったのかい?」
「良いさ。兼行法師も徒然草に書いてるだろ?“友にするにわろき者、病せぬ者"ってね。自らが実験される立場になってこそ、自分がどれだけ重い罪を犯したかが理解出来るだろう。」
そう言うロレの言葉に、メフィストは半眼になって問った。
「だけどさ…改心しなかったら?」
「まぁ…しないだろうね。そうだとしたらこのままだ。別に憐れみは感じないよ。」
「あの外科医もそうだろうな。」
メフィストがそう言うや、ロレは苦笑した。そうして夜空に浮かぶ月を眺めて言った。
「後はあの御方が決めるだろう…。」
そうロレが呟く様に言うと、二人は蒼白い焔と共にフッと消え去り、そこには物言えぬ三人が深い闇の中へと取り残されただけだった…。
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