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メフィストの杖〜願叶師・鈴野夜雄弥
第三話
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この病院の要と言っても過言ではない。しかし、金の汚さだけはどこの病院でも眉を顰められていた。そのためか、金払いの良いこの病院では、彼は始終機嫌が良かった。
 山瀬も看護師としては一流で、有栖川と同じ頃に引き抜かれた。金のためなら老いた権力者と寝ることも厭わず、一時期は働き先で懲戒免職になりかけたこともある。入院中の権力者の息子と関係していたことが明るみに出たのだ。
 そんな二人だが、その有能さはこの病院で遺憾無く発揮されており、そのため、この病院へ来る患者は後を絶たない。
 現在はこの四人がこのシステムを動かしているが、いずれか一人でも捕まれば、他の三人も芋づる式に捕まる訳で、この四人の連帯感たるや強固だった。
 さて、この病院で一番初めに気付くことは、驚く程の清潔感と親切丁寧な対応だ。
 どこの病院でも同じ…とは言えない程、ここは患者を「お客様」として扱っている。無論、それは表向きではあるが、そうしてこそ“裏"を隠せると言うもの。懸命さをアピールする程、医療ミスさえ覆い隠せてしまう。いや、患者の家族が「まさか…そんな筈はない。」と思わされてしまうのだ。他の真面目な医師や病院に迷惑この上ない。
「有栖川さん。」
「これは看護師長。どうしたんですか?」
 ここは地下の施設にある薬剤室。そこにかなり顔立ちの良い男がいた。外科医の有栖川だ。
「例の新薬、森下議員の息子に投与するそうよ。」
「へぇ。あれはまだ早いと思うけどなぁ…ま、大丈夫か。でも、一回3グラム迄にしといた方が無難だよ。」
「分かってるわよ。」
 そう言うや、二人はニッと笑みを溢した。
 二人のいる地下の施設に行くには三つのセキュリティを通らなくてはならず、関係者以外がうっかり入り込むことはない。
 この施設で働いているのは、主に六人の研究者だ。無論、この六人にも多額の給与が支払われている。いや…<口止め料>と言った方が良いかも知れないが…。そして、裏切ればどの様な末路が待っているかも良く知っていた。
 数年前までは、ここには八人の研究者がいた。その内の二人が、この病院を告発しようとしたことがあった。だが、それが水中に発覚するや、二人は消え去った。いや…消されたのだ。消えた数ヵ月後、研究者の一人が関係者から「火葬場へ運ばれた」ことを聞きつけ、他の五人にもそれを話した。
 逃げることは出来ない。告発も失敗する可能性が大…。それ故、六人は沈黙を守ることにしたのだ。沈黙しているうちは、金払いの良い職場だ。沈黙は金…一言でも漏らせば死…。
「そう言えば、看護師長。先月はどうだったんだい?」
「八百ってとこよ。あなたは一桁上なんでしょ?」
「まぁね。けど、ここにいる奴らだって大差ないだろ?」
「嫌な言い方。さて、私は仕事に戻るわ。あなたもここで油売ってないで、早く上に行っ
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