第三話
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- ここは…どこ…? -
気付くと、彼は見知った場所にいた。
「え…?私は…確か…。」
思い出してみる。
そう…彼は位牌を手に、一人線路脇にいたはずだった。そして…飛び込んだのだ。
迫り来る電車…両親を殺した電車……それは飛び込んで消える筈だった。
「何故…生きてる…?」
そう闇の虚空へと呟いた時、ふと…近くから男の声がした。
「済まない…。しかし、死なせたくはなかった…。」
「誰?」
単純な問いだった。だが、その声に生命力を感じられないことが、彼を助けた男には辛かった。
男はどうしても彼を助けたかった。故に、男はその問いにこう返した。
「私はロレ。君が生きると言うのなら、私が一つ願いを叶えよう。」
男…ロレは彼に少しでも希望が残されているならば…そう思ったのだ。
「…お前…雄…?」
彼はロレを見上げ、その声に友人を思い出した。
その友人とは、祖母が亡くなった時に知り合った。彼が悲しみに押し潰されそうだった時、その友人は不意に彼の前へと現れたのだ。
彼が湖の畔で悲嘆に暮れていると、その友人はそんな彼の傍らで静かにヴァイオリンを奏でた。
正直、彼はそいつが鬱陶しかった。だが、その手から溢れる旋律は彼の引き裂かれた心を癒し、自分が人間であることを再確認させてくれた。
友人の名は…雄弥。それしか名乗らなかった。
「何で…君が…?」
「私は…彼ではない。」
そうロレが言った刹那、その周囲に蒼白い焔が広がり、それまで幽かだったロレの姿が明瞭に映し出された。
男はまるで中世のイギリス紳士の様な出で立ちで、金色の髪が蒼白い焔の中に揺れていた。
彼は思った。ただ漠然と「あぁ…違うのか…。」と。
彼は正気かと問われれば、やはり否と答えるしかない。もし正気であれば、ロレが友人と同一人物であろうことは見抜けた筈なのだ。
そして…その瞳の奥にある深い悲しみにも…。
「さぁ、君の願いを叶えよう。」
再びロレがそう言うと、彼は一筋の涙を流して返した。
「父さんと…母さんが…どうして死ななくちゃならなかったのか…その理由が…知りたい…。」
それは…彼の心に刺さって抜けない棘であった。そこから心は壊死して行き、少しずつ彼の精神を蝕んでいたのだ。
「承知した。これは…契約だ。」
そうロレが返すや、彼は深き眠りへと誘われたのであった。
「おやすみ…。明日にはきっと…目映い太陽が昇るから…。」
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