第三話
V
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演奏会の後、角谷は度々店へと来るようになった。それは良いのだが、彼は決まって“あの席"へと座るのだ。
「雄…お前、何かしたんじゃないだろうな…。」
釘宮は不信の瞳で鈴野夜を見るが、鈴野夜は直ぐ様首を横に振って否定した。そのため、釘宮は近くに居たメフィストにギラギラした視線を向けると、メフィストも全力で首を横に振った。
この日は大崎と小野田は休みで、この三人で店を回していた。
ここ最近は客の入りも上々で、次の演奏会はいつなのかという問合せも聞かれて先ず先ずと言えた。
が、彼…角谷のことが無ければもっと良かったと言える。
尤も、釘宮ですら「あの男性には何かある…。」と考えているのだから、どうにもならないのは明白だ。
「…ハァ…。おい、雄。取り敢えず、お前そこはかとなく聞いてこい。」
「は!?これから!?」
「そうだ!早くしろ!」
「…。ラジャー…。」
今にも消えてしまいそうなか細い声で返事をすると、鈴野夜は珈琲を持って彼…角谷ところへと向かった。この珈琲は…結局、鈴野夜の自腹と言うことになるのだ…。
「失礼致します。」
鈴野夜がそう言って角谷の前へ珈琲を置くと、彼は困惑した様子で鈴野夜を見上げて言った。
「申し訳ないが、私は注文してないのだけど…。」
「こちらは当店からのサービスです。」
「…?」
些か困ったと言った風に、角谷は曖昧な表情を見せたため、鈴野夜は軽く笑みを浮かべて言った。
「いつもお越し下さいますので。それに…何かお悩みでもあるのかと思いまして、不躾ながら口実を作らせて頂きました。」
鈴野夜は率直に言った。何と言うか、馬鹿正直である。遠回しにしろ直にしろ怪しさ大爆発なのだから、だったら端から直球勝負…と言うことなのだろう。
「えっと…私、そんな風に見えてましたか?」
「大変失礼とは思いますが、いつも何かを考えてらっしゃるようなので、お力になれればと思いまして…。」
そう鈴野夜が返すと、角谷は置かれた珈琲を見る様に俯き、軽く溜め息を吐いてから鈴野夜へと問い掛けた。
「…例えば、貴方の大切な方が病気で亡くなったとして、どうすれば立ち直れると思いますか…?」
そう問われた鈴野夜は、少々驚いてしまった。こんな無礼な店員に文句もつけず、それどころか真面に返してきたのだから…。
「そうですね…他の誰かを幸せに出来るよう努力します。」
「…?」
鈴野夜の答えに不満なのか、角谷は眉を顰めて鈴野夜を見上げた。理解出来ない…と言った風でもあるが、彼はそのまま次の問いを口にした。
「では…その死が、金でどうにかなったかも知れないとしたら…?」
その問いは彼の“核心"に最も近いものと感じた鈴野夜は、一呼吸おいて返した。
「金銭で買った命を、貴方は“生命"と思えますか?」
「…!?
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