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メフィストの杖〜願叶師・鈴野夜雄弥
第三話
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ていたが、自分に才が無いことを自覚して諦めたのだ。自分は聴く方が向いている…そう思ったのだ。 そのためか、夏奈子も角谷の前では張り切り、より多くの楽曲を演奏しようと頑張っていた。
 練習なのか本番なのか…彼女は見る間に上達して行き、幾つかのコンクールで優勝してプロになることが出来た。
 その中で、二人は当たり前の様に付き合い始め、出会ってから五年後には結婚した。
 だが、角谷は夏奈子を家庭に束縛することはせず、音楽をずっと続けてほしいと言った。彼女は自由であってほしかったのだ。夏奈子はそんな角谷を心から愛し、やがて長男の謙一が生まれ、二人は幸せそのものだった。
 だが、その数年後…夏奈子と謙一が相次いで風邪を拗らせて入院した。最初は軽い肺炎で、暫く入院すれば回復すると言われた。
 しかし数日後…医師から新型インフルエンザと聞かされ、角谷は唖然とした。そして…ワクチンも治療薬も無いと言われ、角谷は医師に掴みかかった。
 何とかならないのか…どうにか既存の薬で凌ぎ、薬が開発されたら投与することが出来ないのか…そう聞いたは良いが、その答えを聞いて角谷は再び唖然とするしか出来なかった。
 薬が出来るまで…持ち堪えることは難しい。残念ですが、今の医療では限界です…医師はそう言って彼の手を退け、そのまま診察室から出ていったのだった。
 衰弱して行く妻子…ただ見ているしか出来ない自分…。悲しく、虚しく…そして腹立たしかった。
 無論、患者は全て隔離病棟で、側に行く時は帽子にマスクに使い捨ての手袋を着けねばならない。それでも…感染の可能性はあるが、角谷はそうしてでも妻子の傍らに居続けたかった。
 そんなある日。角谷は嫌なものを見てしまう…。
「先生…これで一つ。」
「まぁ、大丈夫ですよ。心配には及びません。」
 そう言って一人の医師が男性から分厚い封筒を受け取っていた。そこは非常階段であり、角谷はたまたま風にあたりに出ていたのだ。その真下で…それは行われた。
 だが、それが金という確証はない。そして、新型インフルエンザに関わるとも断言出来ない。
 しかしだ…結果、権力や資産のある家の者は、誰一人死ぬことはなかった。
 考えたくもなかった。そんな考えで…夏奈子と謙一の思い出を汚したくはなかった。

 今だけは…音楽が彼の心を癒してくれるように…。




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