第三話
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たのだ…そう彼は考えを訂正するが、角谷の心には既にどす黒い陰が纏わりついていた。
そんな自分に気付き、そしてまた自分を嫌う…それの繰り返しなのだ。
「お待たせしました。皿が熱くなっておりますので、お気をつけ下さい。」
暫くすると、そう言って店員がラザニアと珈琲を持ってきてテーブルの上に置いた。
持ってきたのは西原の妹の英美だった。他はまた演奏に戻るためにセッティングをしている様で、ステージ脇へと集まっていた。
「次の曲目は何ですか?」
角谷は何気無く問った。すると、英美は苦笑しつつ返した。
「私も知らないんです。その時によって曲目を変更するとかで。」
「そうなんですか…。」
「何か聴きたい曲でも?」
英美は男性が何か言いたそうにしていたため、そう問い掛けてみた。尤も、マーラーの交響曲…とか言われてもどうにもならないのだが。
「いえ、そう言う訳ではないので…。」
「別に構いませんよ?でも、ルネサンスからバロックまでですけど。」
そう言って微笑む英美に、角谷は頭に浮かんだ曲を口にした。
「コレルリの“ラ・フォリア"を…。」
「大丈夫だと思いますよ。オーナーに伝えておきますね。」
そう言って会釈をすると、英美はそのままステージの釘宮の元へ向かった。そんな彼女を見て、角谷は再び亡き妻を思い出した。
いや、何を見ても何を聞いても…どうしても亡くした二人が頭を過る。それがずっと…二人を失ってから今この時までずっと続いているのだ。
恐らく…これから先もまた…。
「それでは次に、イタリアの作曲家アルカンジェロ・コレルリの“ラ・フォリア"をお聴き頂きます。」
そうして響いた音楽…リコーダーと通奏低音による懐かしい響きは、角谷の心を押し潰さんと彼の中へと雪崩れ込んできた。
この曲は、彼が妻と出会う切っ掛けになった曲だった。
それは、彼の妻…夏奈子が音大にいた頃、角谷はその近くの会社で新人として働き始めていた。
夏奈子はルネサンスからバロックの木管楽器を学ぼうと、手始めにリコーダーを習得するために練習していた。
彼女はよく大学近くの河原で練習しており、それを角谷が偶然聴いたのが出会いの切っ掛けだった。初めに話し掛けたのは角谷で、夏奈子は大変驚いた風だった。
リコーダー…独語でブロックフレーテだが、日本語では縦笛。どれだけ巧みに演奏しようと、所詮は学生の楽器と思われるのがオチと言うもの。
だが、角谷はそんな夏奈子の心中を察してか、もっと演奏が聴きたいとその場に座ったのだった。夏奈子はそんな彼を変とは思わず、音楽好きな青年…そう思って練習を再開した。
その曲が“ラ・フォリア"だった。
二人はその後、何度も会うようになり、時には時間を忘れて音楽の話を延々と語り合った。
角谷も元は音大を目指し
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