第三話
I
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テージへとチェンバロを置いてから口を開いた。
「こんな面白そうなこと、何で直ぐに言ってくれなかったんですか!」
「えっと…。」
ここへ来て、まさか「女の子の仕事じゃないよ。」なんて言えば男尊女卑だと説教が始まると考え、釘宮は苦笑しつつ返した。
「この前出てもらった休日を回しただけだよ。四人で充分だしね」
「そんなのフレツさんも同じじゃないですか!」
「そ…それはそうなんだけどね…。彼は手伝ってるだけで、実は休みな…」
「だったら私も同じですよ!」
何だか薮蛇だったと釘宮は溜め息を溢したが、小野田は直ぐに関心をチェンバロへと向けて言った。
「でも…チェンバロって実物初めて見ました。ピアノは家にありますけど、昔はこんな箱みたいな形だったんですね…。」
「そうなんだよ。音、聴いてみるかい?」
「え?良いんですか?」
「勿論。」
釘宮はそう返答し、そそくさとチェンバロの前に来た。話が逸れたのを幸いに、このままうやむやにしようという魂胆だ。
さて、釘宮は早速鍵盤に手を触れた。そこからはオーナーとしての釘宮はなく、一演奏家としての彼がいた。
彼の指先から生まれた音は生き生きと響き、ここが喫茶店であることさえ忘れさせていた。
― こんな演奏出来るんだったら…こんな辺鄙な町で喫茶店なんてしなくとも…。 ―
前に立った四人はそう思っていた。
確かに…釘宮の腕は一流と言えた。元々音楽家になりたかったのだが、金銭面で都合がつかずに諦めたのだ。それ故、先に出てきたコレギウム・ムジクム云々…が出てきた訳だが。
「えっと…オーナー…」
「大崎。言いたいことは何となく分かるが、それ以上は言うなよ?」
それなりに気にしているようだ。ここでいくら演奏が一流だろうと、所詮はままごとなのだ。夢は夢…こうしたままごとでも、今の釘宮には充分なのだ。
釘宮はこの店が大切であり、そしてここで働く目の前の四人が大切だ。これを手放してまで追いかける夢ではないのだ。
大崎に鈴野夜、そしてメフィストにはそれが良く理解出来た。しかし、小野田はどうもピンッとこないと言う風に首を傾げたが、それに答えない代わりに、釘宮は再び鍵盤に指を走らせたのだった。
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