第二百六話 陥ちぬ城その六
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「ここはな」
「沼があるからか」
「うむ、沼は水じゃ」
「それ故に攻めにくいが」
「それは普通に攻めた時のこと」
正攻法のだ、城に近付き堀も城壁も越えての攻め方の場合だというのだ。
「しかしそれでは駄目じゃ」
「この城はな」
「只の平城ではない」
石田はそのことを一目で見抜いていた、普通平城は攻めやすい。しかしこの忍城はというのである。
「これだけ沼に囲まれておると」
「攻めにくい」
「普通ではな」
「だから水じゃな」
「それを使ってだ」
そして、というのだ。
「攻めるとしよう」
「それがよいな、ではな」
「はい、さすれば」
島も応えて来た、そのうえで。
まずはだった、石田は二人に言った。
「しかしそれはな」
「あくまで戦になった時のこと」
「その時のことですな」
「まずは使者を送る」
そして、というのだ。
「降る様に勧める」
「それで降らねば」
「その時はですな」
「あらためて攻める」
こう言ってだ、石田はまずは城に使者を送った。それは大谷自らが務めた。
大谷は城の中に入りそのうえで城主である成田氏長と会い降る様に勧めた。だがだった。
成田は降ろうとしていた、しかし。
その場にいた若い女、まるで花の様に美麗で長い睫毛に整った顔を持つ女がだ、こう大谷に言って来た。
「我等も北条の臣下」
「むっ、貴殿は」
「甲斐姫と申します」
こう大谷に名乗ってだ、女はさらに言った。
「一戦も交えず降っては武門の恥」
「だからでありますか」
「はい」
それで、というのだ。
「降りませぬ」
「そう仰るか」
「左様、若しこの城が欲しければ」
そう思うのならというのだ。
「戦で」
「左様か」
「これ以外の返事はありませぬ」
これが甲斐姫の返事だった。
「ですから」
「貴殿、おなごであるが」
「おなごであろうとも武家の者」
だから、というのだ。大谷に対して。
「さすれば」
「戦われるか」
「そうであります」
「ではこのこと伝えまする」
石田達にもというのだ。
「そしてでござる」
「一戦交えましょうぞ」
甲斐姫は不敵な笑みさえ浮かべてだ、そしてだった。
大谷を送った、その顔は大層美しいが。
それでもその気は武士の者だった、それで大谷は城の外の織田家の陣に戻り彼が話したことを石田達に伝えた。甲斐姫のことも。
その甲斐姫のことを聞いてだ、島が言ってきた。
「思い出しましたが」
「といいますと」
「はい、西に鶴姫おれば東に甲斐姫あり」
こう二人に言うのだった。
「そう聞いていました」
「ではあの甲斐姫は」
「東国一のおなごとのことです」
その武でだ。
「帰蝶様に匹敵するやも」
「何と、あの方とか」
「
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