第二百六話 陥ちぬ城その二
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「氏真殿ともよく遊んだ」
「でしたな、あの方とも」
「それで氏真殿は」
「また都に行っておられます」
京の都にというのだ。
「そうされています」
「ふむ。都にか」
「それで都に戻って来られている公卿の方々と親しく交わっておられるとか」
「それは何よりじゃな」
「はい、しかし」
「しかし?」
「どうも高田殿という方とは」
鳥居はやや難しい顔になって家康に述べた。
「あまり」
「上手いっておられぬか」
「というかお声をかけられましても」
氏真の方からだ、そうしてもというのだ。
「返ってこぬと」
「氏真殿が仰っているのか」
「その様です」
「氏真殿は悪い方ではない」
幼い頃から知っているからこそだ、家康はこう言うのだった。
「まことにな」
「それがしもそう思います」
「しかしか」
「はい、その高田殿とだけは」
「駄目というのじゃな」
「その様です」
「高田殿か」
この者の名をだ、家康はここで心に刻んだ。
「どの様な方か」
「気になりますな」
「うむ、どういった方かな」
家康は眉を顰めさせて言った、そして鳥居だけでなくそこにいる己の家臣達にこうも言った。
「この戦が終わればじゃ」
「氏真殿からですか」
「お聞きしますか」
「そうしてみよう、氏真殿は都におられる時もあれば」
「はい、岡崎にもおられますし」
「そして駿府が我等の手になりました」
駿河が徳川家のものとなったからだ、そうなることも当然だ。
「氏真殿のおられた場所が」
「うむ、それで氏真殿も駿府に来て頂く」
「当家のお客人として」
「これまで通り」
「わしは氏真殿は嫌いではない」
やはり幼い頃からの付き合いからだ、お互いに嫌ってはいないのだ。
「だからな」
「それで、ですな」
「氏真殿も」
「駿府に来て頂く、義元殿はもう駿府に未練はない様じゃが」
「はい、あの方はです」
「出家されて寺に入られて」
そうしてとだ、家臣達が話した。
「最早俗世に未練はないとのこと」
「仏門で学問に励んでおられます」
「都でそうされてです」
「公卿の方々とも親しくされているとか」
「そうじゃな、それならばな」
義元はというのだ。
「あの方はそのまま都にいてもらおう」
「僧としてですな」
「あの方の望まれるまま」
「そうしよう、では氏真殿は駿府に来て頂き」
客人として招き、とだ。家康はさらに言った。
「その高田殿のこともお聞きしよう」
「我等はどうも都のことには疎いですからな」
「どうにも」
「こう言うと田舎者になりますが」
「それでも」
「ははは、仕方ないわ」
田舎者であることをだ、家康は笑って認めてそのうえで言った。
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