第四十五話 博士その十
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「遺伝子的にはわかってきているから」
「そこからわかるか」
「さて、わしもな」
ここでまた言った博士だった。
「少し調べる」
「博士もか」
「君達に相談を受けたからにはじゃ」
「調べてくれるってか」
「うむ」
確かな声での返事だった。
「任せてもらおう」
「それじゃあ頼むな、そもそもな」
「そのつもりでこちらに来たのじゃな」
「そうだよ」
「ならよい、少し待ってくれればな」
「わかるんだな」
「そしてじゃ、赤い嬢ちゃんじゃが」
ここでだ、博士はだ。
薊に対してだ、こんなことを問うた。
「言葉の訛りがこっちではないのう」
「ああ、神奈川で育ったんだよ」
「それも横須賀かのう」
「わかるんだな」
「方言も調べておる」
学者として、というのだ。
「だからわかるつもりじゃ」
「それでなんだな」
「嬢ちゃんはあちらから神戸に来たのじゃな」
「ずっとあそこの孤児院にいたよ」
薊は博士にこのことも話した。
「八条グループの運営するな」
「そういえば関東にもそうした施設があったのう」
「そこで何不自由なく院長さん達に育ててもらったよ」
「ここに来るまでじゃな」
「高校二年の途中までな」
まさにそうだったというのだ。
「いい人だよ」
「若しかしたらじゃ」
「若しかしたら?」
「嬢ちゃんのことはその院長さんが詳しいかのう」
そうではないかとだ、博士は薊を見つつ話した。
「若しかしたらじゃが」
「院長さんがか」
「少なくともどうして孤児院に来たのかじゃな」
「何かな」
孤児院に入った理由についてだ、薊はその院長に言われてきたことを博士にそのまま話した。
「孤児院の前に置かれていたんだよ」
「嬢ちゃんがじゃな」
「赤ん坊の時のあたしがな」
「そうか、それで全部かのう」
「?何だよ」
「院長さんは嬢ちゃんにまだ話していないことがあるのやもな」
こうしたことを言ったのだった。
「若しかしてな」
「おいおい、院長さんがあたしに嘘を吐いてるとか言うなよ」
薊は博士の言葉にそうしたものを微かに感じたので眉を顰めさせて忠告した。
「あの人はそんな人じゃねえよ」
「いやいや、まだじゃあ」
「話していないことがかよ」
「嘘と隠しごとは違う」
博士はこのことは断った。
「もっと言えば隠しごとと言えないことも違う」
「じゃあ院長さんは」
「言えないことがな」
「あたしにあってか」
「それで言っておらぬかも知れぬ」
こう言うのだった。
「何かをな」
「あたし自身のことをか」
「うむ、そうやも知れぬ」
「それが何かか」
「嬢ちゃんの出生のことやもな」
その可能性も否定出来ないとだ、博士は薊に言った。
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