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日向の兎
1部
40話
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識を得る環境を与えてくれた。少なくとも今の私が在るのは貴方のお陰でもあるのだから、貴方は十分に父親だったといえるだろう」
私は親父殿に注がれた酒を飲みながら、淡々とそう答えた。
「そうか……そう言って貰えるならば良かった」
「……なぁ、親父殿。いい加減にしてくれないか、そんな辛気臭い顔を目の前にしていては酒の味が落ちる」
「そうだな……ヒジリ、私は言ったな、お前に伝えねばならん事があると」
確かに死の森の試験前に言われたのだったな……中忍試験終了後に伝えるという話だったはずだ。
「ああ」
「それが今夜になったのだ」
「ふむ、で、それがどうしたと言うのだ?」
「恐らく、お前は日向の家から完全に去る。そして、次にこの家に戻る事があったのならば、その時のお前はもう日向ヒジリではなくなっているだろう」
「随分な言われようだな……その事実が一体何なのかは知らんが、私の在り方はそれほど脆いものではないぞ」
親父殿の言葉を受けてか、私の口調は知らぬ内に少し不貞腐れたようなものになっていた。自分の在り方を維持する事に重きを置いている私にとって、親父殿の言葉は中々に捨て置けぬ言葉をだったからな。
「そうであることも私は願うが、私の言った通りになる可能性も十分にある。だからこそ、私は父として最後にこうして語り合いたいのだ」
「……こうして面と向かって語り合う事が殆ど無かった上に、勘当を受けている私が言うのはなんだが、親父殿は私を舐めているのか?
内容すら私に告げずに、私の事を一方的に決めつけられる事ほど腹の立つことはないのだ。せめて、その内容の一端だけでも私に教えるというのが筋ではないのか?」
すると、親父殿は半ば自棄になったように酒を飲み、しばらく目を瞑ってから絞り出すような声で言葉を紡いだ。
「本当に……いいのか?」
「くどい」
「……分かった。単刀直入に言おう、ヒジリ。
お前は……人ではない」












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