二話:料理とジュエルシード
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一ケ月の間共に暮らしていた彼女には分かってしまったのだ。
彼が純粋に自分達のことを心配して怒っていることに。そして、隣で今まで経験したことのない質の怒りを感じてオドオドしているフェイトを見てやるせない気分になる。フェイトは真剣に叱られた経験が少ない。母親であるプレシアは怒鳴りつけることしかしない。自分では叱るには距離が近すぎるので出来ない。彼女のことを思って叱ってくれていたのは、今は亡き使い魔のリニスぐらいだろう。
しかし、そこにヴィクトルという男が入って来た。普段は甘く、優しいだけに見えなくもないが彼は叱るべき時にはきちんと叱るのだろう。事情があるのであってフェイトもアルフも好き好んでやっているわけではないがそれは話さなければ相手には伝わらない。だが、フェイトは話すことが出来なかった。彼女は怒こられている時には謝ることしかしてこなかったからだ。
故にこういった場合にどうすればいいのかを知らないのだ。その為にヴィクトルから目を逸らしてオドオドとしている事しか出来ない。そんな様子にヴィクトルはこれ以上叱っても意味がないと悟り、立ち尽くしている二人の元に近づいていく。その行動にフェイトは叩かれるのかもしれないと思って身を縮こまらせて目を瞑るが、次の瞬間に感じたのは柔らかく暖かな感触だった。
「とにかく……怪我がなくて本当に良かった」
「ヴィ…ヴィクトルさん?」
「な、何してんだい!? あんた!」
「話したくないなら、無理に話さなくていい。話したくなったらで構わない。ただ、自分から傷つくような真似はしないでくれ」
ヴィクトルは二人を抱き寄せて子供をあやすようにポンポンと背中を叩きながら無事でよかったと言った。その行動にフェイトは戸惑い、アルフは恥ずかしげに顔を赤らめて叫び声を上げたが彼はそんなことを気にすることなく二人の温度を確かめるように抱きしめ続けた。
そんな行動にやがて、アルフは抵抗するのを諦めて彼に身を預けて、フェイトは気持ちよさそうに目を細める。しばらく二人を抱きしめ続けたヴィクトルだったが、やがて二人を開放して気分入れ替えるように声を掛ける。
「そろそろ昼食の時間だ。私の話は食べながらでもしよう。それでは……帰ろうか」
「……はい!」
「話よりも、アタシは美味いもんを作って欲しいね」
「ふふふ、楽しみにしていなさい」
穏やかな空気が流れ始めた中でフェイトはヴィクトルの大きな背中を見ながら不意に思う。自分は父親を知らないが、もし、理想の父親という者がいるのならそれはヴィクトルのような人物のことをいうのだろうなと。そして、彼の子供は本当に幸せになれるのだろうなと―――口に出していれば娘を利用した彼が最も罪悪感に苦しめられるであろう言葉を心の中で呟くのであった
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