二話:料理とジュエルシード
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見計らってからであったし、今日も追われる様なヘマを犯すどころか、やすやすと接近を許すほど気を抜いていたわけではない。
それにもかかわらず、ヴィクトルは追って来たというのだ。その事実にアルフは少なからず警戒心を抱き、ゆっくりとまるで庇うようにフェイトの前に立つ。だが、ヴィクトルの次の言葉を聞いた瞬間にその警戒心は直ぐに無くなる。
「余り心配させないでくれ……もし、君達を失ったらと思うと……私は耐えられない」
「ヴィクトル…さん」
「あんた……」
初めて振り返ってそう二人に告げる彼の目は酷く寂しげであった。声も母親を探す子供のように切なげでいつも彼が見せていた大人の余裕というものが無くなっていた。その事にフェイトとアルフは彼の言っていることは本心からであると確信して黙ってこんな事をしていたことに罪悪感を抱いてしまう。ヴィクトルは今までに多くの者を失ってきた。
自分から殺した者も多々いるが、その者達を愛していなかったかと言われれば彼は間違いなく愛していたと答えるだろう。愛してはいても、より愛する者を守る為に仕方なく犠牲にしてきたのが彼なのだ。だからこそ、彼は失うという事を酷く恐れる。もう間違えたくないがゆえにこうして二人を守りに出てきてしまったのである。
「まあ、今はいい。小言は後でたっぷりと言わせてもらおう」
そう言って、ヴィクトルはどこからかハンマーを取り出して構え、静かに熊を一瞥する。アルフとフェイトは魔法も使えないヴィクトルには荷が重い相手だと思ってすぐに止めようとして声を掛けようとしたが口が開かなかった。何故か?
それはヴィクトルが醸し出す空気に圧倒されたからである。絶対的な強者のみが纏う事を許された息をすることも許さぬ威圧感。本気を出している訳でもないのに目を向けられただけで殺されてしまうのではないかと感じる、射抜くような冷たく鋭い目つき。そしてなにより、幾多の戦いを経なくては手に入れられない体から滲み出る勝利への絶対的な自信。それらがヴィクトルの強さを雄弁に物語っていた。
二人は初めて見るヴィクトルの姿に息をするのも忘れて見入ってしまっていた。もっとも、その時に彼が内心では熊の手は良いスープのダシになるから後で回収しようかと考えていることを彼女達は知ることは無いだろうが。
「待っていなさい。すぐに終わる」
そう言うや否や、ヴィクトルは一気に巨大な熊に詰め寄る。それに反応した熊は巨大になっても衰えることのない野生の俊敏さで鋭利な爪のついた巨大な前足をヴィクトルへと振り下ろす。それに対して彼は少しも焦ることなくハンマーをスッと下に降ろしそこから熊の攻撃にやすやすとタイミングを合わせて闘気を込めた一撃をその足に叩きこむ。
「ファンガ・プレセ!」
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