2部分:第二章
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第二章
それで行灯の火を点ける。そして見るとであった。
「あれ、これは?」
床から出ているそれはそのまま畳の上にあった。それで屏風を乗り越えていた。彼はそれをさらに不思議に思ってた。床から出てその屏風の向こうに行くとであった。
「な、何だこりゃ!?」
何とだ。その白いものの果てがそこにあった。その果てとは朝顔の顔であった。彼女の顔がそこですやすやと寝ていたのである。
「お、おい!」
「あい!」
「おめえ何だよこれは」
彼は驚き焦った顔でその朝顔に言う。
「何で首がこんなところにまで延びてやがるんだ」
「あら、どうしたでありんすか?」
目を覚ました朝顔の返事は実にあっけらかんとしたものであった。
「あちきに何か」
「だから何かもこうしたもじゃねえよ」
こう言い返す彼だった。
「大体な」
「あい、大体?」
「手前人間なのかよ」
二郎吉はその屏風の裏で腰を抜かしたまま言う。
「若しかして」
「あい、その若しかしてでありんすよ」
ここでもあっけらかんとした朝顔の返事である。
「あちきはですね」
「ろくろ首だってのか」
「そうでありんす。あちきはろくろ首でありんす」
「じゃあ化け物かよ」
二郎吉はたまりかねた声で言った。
「手前、そうだったのかよ」
「あら、ろくろ首は化け物でありんすか?」
ここで一旦朝顔の首が引っ込んだ。そうしてである。彼女は赤襦袢姿で布団から出て来てだ。そのうえで首を少し延ばしながら彼のところに来たのだ。
「それは心外でありんすが」
「化け物でなくて何だってんだ」
彼は何を言うのかという顔で彼女に返した。
「全くな」
「まあまあ落ち着いて欲しいでありんす」
やはりここでもあっけらかんとしている朝顔である。
「それよりも旦那」
「何だよ」
「今喉が渇いてるでありんすね」
こう彼に言ってきたのである。
「そうでありんすね」
「まあな」
それで目が覚めて今に至っているからそのことには素直に頷いた。
「ちょっとな」
「そうでありんすね。それなら」
「それなら?」
「お茶でもどうでありんすか?」
穏やかな声で彼に言ってきた。
「それともお水で」
「酒だ」
だがここで彼が所望したのはこれであった。
「酒をくれ」
「お酒がいいんでありんすか」
「まずは落ち着かせる」
そうするというのである。
「酒でも飲んでな」
「あい、わかりました」
朝顔も彼の言葉に頷く。そうしてであった。
二郎吉は酒を飲んで気持ちを落ち着かせながらだ。その朝顔と話すのだった。彼女の首はその話をする時も延びていてあちこちを漂っている。
その彼女にだ。彼は言った。
「まさか吉原にいるなんてな」
「それに驚いたでありんすか」
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