第一章:大地を見渡すこと その壱
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いるのであろうか、時折ペースが乱れているのが分かってきた。
(……いやな予感がする。ああいう場合は得てしてその後ろを尾けられているんだが。)
口の緩みはとうに消え去った。足を完全に止めて、眼光は鋭く光って馬の方向をみつめている。眉間のしわが寄せられて、彼の周りの空気が徐々に重たいものと成っている。体の向きが町から馬へと変わり、紐帯にさした刀がジャキンと鳴る。やがて馬に乗った者の姿形がはっきりとする前に、馬の後方から一頭のものだけとは思えない土煙が沸いて出た。土煙の中にちらと反射したものは紛れもない、鈍き光、血の啜りを求める、一振りの剣であった。
(賊か!)
そう思うや手荷物を地に捨てて馬の方へ走っていく。歯は舌をかまないように噛み締められており、短髪は体が風を切る音と共に揺らめいている。刀の鍔に指をかけて走るさまは板についたもの。鞘の先に足をぶつけることなく、先ほど以上の速さで駆ける彼の姿は先ほどの間抜けさを地の果てへ放り投げだしているかのようである。
辰野仁ノ助は、この出来事を以って、戦乱の波へ飛び込んでいくことになるとは、彼自身は露とも思ってはいなかった。
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