第一章:大地を見渡すこと その壱
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然の如く生まれる。そして野党の襲撃によって死する者も悲しむものも当然生まれる。
それが漢王朝の末期。『遊びの仁』こと、辰野仁ノ助が今生きている世界である。
(日暮れまで時間はあるが、宿をとらないと野宿となる。ぶっちゃけ無理)
最近の噂を聞くに、宿に泊まる程懐が重い者の方が寧ろ少ないようだ。明日の食事も、果ては今日の食事もありつけぬ者も出始めている。飢えて死する事ほど、惨めで理不尽なことはない。彼はその点、磨き上げた武技と妙技で金を稼げるという、傭兵まがいのこと続けて生き続けた。賊のようにならないよう、自分の心を堕落させないように、常に自分に言い聞かせそれを実践する。『遊びの仁』の心は、大陸の民衆と同じように逼迫した方向に傾き始めていた。
徐々に近づき始める町を見て、胸の中の安心感がさらに広がる。町に着いたら、手荷物の中にある金銭をはたいて食事を買い、今日も生きてこられたことに対する感謝を胸に食事と酒にありつこう。
ーーーーーー舌に転がる肉からはしっかりと染み込んだ出汁がきいており、食事に飽きをもたらさない。喉に渇きを覚えたら、酒を呷|(あお)り口の中に残る脂身と共に嚥下|《えんげ》する。そしてまた、食されることを望んでいるかのように自らをアピールする色とりどりの食菜をみて、満たしかけた空腹感をもう一度取り戻す。握った箸が僅かに振るえ、皿に残る肉へとまた伸びていく。嗚呼、これぞまさに桃源郷なり。さらば空腹、ようこそ満腹ーーーーーー。
「……………ゥヘヘヘ……………………ヘヘッ………………………………ハッ!?」
トリップしかけた頭を振るい、口からこぼれている涎|《よだれ》を拭う。宦官どもには味わえぬ満足感を期待するうちに、口がにやついてしまった。されど致し方なし。日々生きることに全力を注ぐ者にとって、食事と酒ほど気が緩み、この世の天国を体現するものが他にはない。食事の前の空腹は満たされぬうちが幸福であることを、彼は酒と共に知ったのである。
にやつく口をそのままにウヘヘと馬鹿さを毀れだし、まだ見ぬ町へ足を早めた彼を責める者は誰一人としていない。だがにやつきながら、しかも走る馬にも追いつきそうな速さで大地を駆ける彼を見たら、きっとそれはよからぬことを企む変態にしか見えないであろう。
その時、彼の後方から焦っているかのように鞭を打たれる馬の嘶|(いなな)きが聞こえた。商人であろうか?否、それならもっと日が高いうちに町に入るだろう。口が緩みっぱなしのまま仁ノ助は足を遅くし、後方を見遣る。馬の声がするほうに小さく見える一つの影が現れていた。完全に足を止めた彼は目を細めてその先を見定める。馬に鞭を打っているのは、なにか煌|(きら)びやかな服を着た人だ。鞭を打つペースは通常のそれよりも速く、その者自身の疲れが出て
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