第一章:大地を見渡すこと その壱
[3/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
第一章:大地を見渡すこと その壱
「寝すぎた…………の、かな」
当たり前である。
既に三刻|(約6時間)も過ぎて、天の赤い光が西に傾き始め大地を斜めに輪切りにしている。空に移る青は未だ残っているが、それでも色が変わり始めている。そんな時間まで馬鹿眠りをしていた男は、割かし焦って近くの町へと足を早めて向かわせていた。寝る前まで使っていたぼろぼろの刀は鞘に収められて紐帯に収められており、男の素性を確りと物語る手荷物は男の俊足の邪魔をしないように力強く背負われている。走るリズムは変わらずに、朧|(おぼろ)に地の先に見え始めた町を見定めると、心に静かに安心を湛えた。
時は後漢王朝の末期の時代。外威と宦官による横領から始まる政治腐敗は、大陸の中心である洛陽に留まらず、全土へとまるで火事のように広がっていった。僅か12の齢で帝となった霊帝を支えんがために、皇帝の母やそれに近しい者が皇帝の代わりに政治を司った。しかし彼女らははっきりいってこれは不得手としており、さらには朝廷の金蔵は前の皇帝らによる浪費によって金欠が生じる有様。そこで彼女らは自らの信頼を預けるにたる人物、すなわち家族や親族に助けを求めた。彼らは『外威』となって政治を行おうとした。しかし彼らも職業柄から政治が不得手であり、彼らも同時に助けを求めることとなる。そして外威は、宮中に入るために男の象徴を切断した野心家達、すなわち『宦官』に救いの手を求めた。これこそが致命的な誤りであったとは彼らは思うまい。
そもそも宦官は後宮の世話をすることが仕事であるために、終身雇用を許された身であり、年とともに発言力が増して周囲に頼られていくが同時に野心と権力欲と尊大な自尊心を培ってきた。そんな折に外威から救いの手を伸べられた彼らにとっては、「これぞ天恵!」とも思ったであろう。実質的には外威を上回る権力を持つ彼らは、自らの獣欲と自尊心を満たすために|(または金欠政治を是正するために)贈賄政治を始めた。贈らぬものは投獄・左遷の身となり、贈ったものもまた次の贈り物を用意するうちに宦官の欲に飲まれていき、最後には宦官と瓜二つの性格を持つ悪人が蔓延|(はびこ)っていく。中にはこれを批判する勇気ある者たちがおり宦官抹殺計画を密かに練っていたのだが、これの露呈によって全員処刑の身となった。
これを見た地方の政治家も、税金として民衆から金銭やそれに値するものを奪うような政治を始めていく。中には宦官に贈り物を捧げ、出世を取り付けるものさえいた。民衆は日々困窮する生活に対し強い悲哀を覚えたであろう。だがそんなの関係ねぇともいうかのように、洛陽では宦官を中心に贅沢三昧を楽しんでいた。困窮に耐えかねた民衆の中から、生きるために野党となって、血をすすり肉を満たす者も当
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ