短編51「愛すべき退屈な日常」
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と午後ティーを持って、友達が帰って来た。僕らは、飲みながら次の言葉を考えていた。遠くでサックスの音が聴こえる。沈黙を破ったのは友達だった。
「本当は一年の時から知ってたんだ。でも言えなかった。友達から先になれなくて、友達にすらなれなくなるのが怖かった」
と、彼女は言った。
「オレ達は友達で、だから友情でつながっていて……だけどオレ……」
友達は下を向いていた。
「僕も前から知ってたよ。キミが1年の時から」
「えっ!?」
「やっとこっち向いてくれたな!」
僕は彼女と目が合わせられて、嬉しくてニカッと笑った。でも彼女は真っ赤になってすぐにうつむいてしまった。しばらく沈黙が続いた。
「可愛いなあって、思ってたんだよ」
次に沈黙を破ったのは、僕だった。
「えっ嘘?」
「本当だよ。そういや髪長かったよね?」
と、僕が言うと……
「やっぱり長い髪が好きなんじゃん」
と、友達はつぶやいた。
「だけど髪をばっさりと切ったんだよね」
友達はビクッとした。
「兄貴が……兄貴が死んだから」
と、友達はつぶやいた。
「オレは兄貴が大好きだった。兄貴のようになりたかった。だから死んだ兄貴のように髪を短くしたんだ」
彼女の髪はスポーツ刈りだった。一見したら柔道か空手をしているのかと思うほどだ。それなりに似合っていたし格好も良かった。
「でも私は女で、兄貴のいる世界には近づけなかった」
僕は彼女の部屋を思い浮かべていた。男の子のような部屋。趣味はギターやバイク。きっと沢山、背伸びしたんだ。僕はそう思うと胸が詰まる思いがした。
「キミはキミのままでいいと思うよ」
僕はそう言うのが精一杯だった。僕はコーラを飲んだ。遠くから聴こえるサックスの音色はブルースを奏でていた。夕陽が沈んでいく。
「帰ろっか?」
と、彼女が言った。彼女はメットをかぶるとカタナにまたがった。
ヴォーン
と、いうエンジン音と共に、ヘッドライトが木々を照らした。
「乗って!」
彼女の声に、僕もメットをかぶると後ろに乗った。そして彼女にギュッとつかまった。
次の日からは、いつもと同じ日々が始まった。
「「なあ、なんか面白い事ないかなあ」」
僕らはハモった。僕らは退屈で死にそうだった。高校2年の中だるみ。部活もバイトもしてない僕らは、とにかくとにかく退屈だった。
「なんかない?」
「そうだなあ……」
僕はペン回しを始めた。
「どうやんの?」
「中指と親指ではじくんだよ!」
「わっ!」
友達がはじいたシャーペンが僕に飛んで来た。シャーペンは僕の頬にぶつかった
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