一話:別れと出会い
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そして、男は絶望の淵から這い上がり、彼女に希望を見出した。そして、お互いに想いあった彼等は結婚し、一人の娘をもうけた。男は生まれて来る娘にかつてのアイボーと同じ名前を付けた。もう二度と、見捨てないのだと心に誓って……。
彼女は難産の末に一人の元気な女の子を産んだ。余りにも難産だった為に彼女は身体が弱くなってしまい、もう子どもが出来ない体となった。しかし、それでも二人は幸せだった。かつての仲間や兄が生まれた女の子を祝福してくれた。この幸せがいつまでも続いてくれると男は思っていた。娘がアイボーと同じ、一族に数代に一人しか生まれない世界を救う力を持つ者―――クルスニクの鍵と判明するまでは。
男の父親は残酷にもその娘の力を利用しようとし、かつての仲間たちも自分達の世界を守るために赤ん坊を本物の世界への交渉材料に使おうとしていた。兄だけは間に立ってくれてはいたが結局の所、男の身を案じることを優先としていた為にどっちつかずの状態で娘を守るという選択をすることはなかった。
男はそんな彼等の意見に断固として拒絶の意識を見せた。かつてのアイボーのように世界の為に娘を犠牲にするということは許せなかった。もう二度と間違いを起こさないと心に決めていた。それ故に男と仲間達の交渉は平行線をたどっていた。そしてこのままでは埒が明かないと思った一人が何気ない言葉を男に投げかけた。
――子どもなんて、またつくればいい――
その言葉は男を激昂させた。妻がもう二度と子供を作れない体になったにも関わらず言われた言葉。この世に一人しかいない娘を侮辱する言葉。男は最愛の妻が身を削ってまで生んでくれた愛娘を利用しようとするもの全てに怒りを露わにした。男は迷うことなくかつての仲間と父、そして自分の味方にならない兄へと刃を向け―――殺した。
その時の選択も間違いだったかもしれないと思うが、後悔の念は無い。娘を守る為に取った行動に後悔の念は抱きたくない。だが……その光景を見た妻が、自分が娘をしっかりと生んでやれなかったせいだと思い込み、精神に変調をきたし、病の床に伏せることになったことは悔やんでも悔やみきれない。妻を何よりも愛していた男にとっては自分が兄と父、そして仲間達を皆殺しにしてしまったが為に妻を傷つけたことに苦しみ続ける。
妻は記憶もあいまいになり、過去にあったことを何度も、何度も……ただ、繰り返すだけになってしまった。終いには、娘の存在も忘れ、夫の存在も分からなくなってしまった。だが、それでも男は妻を愛し続けた。彼女が生きていてくれさえすれば良かった。とにかく生きて自分の傍にいてさえくれれば、それでよかった……それで良かったのにもかかわらず―――妻は自分を殺してくれと男に頼んだ。
男は、妻はまたおかしくなったのだと信じ、拒んだ。だが、妻の決意は
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