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ラミア
1部分:第一章
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来ました」
「詩を求めて?」
「そうです。私は詩人なのです」
 そのことも正直に述べた。自分を隠すことはここではしなかった。
「ですから。詩を求め各地を旅しているのです」
「そうだったのですか」
「そして遠くこの地を旅しているうちにこの泉に辿り着き」
 そのことも述べる。
「そしてここで休んでいたのです」
「そうだったのですか」
 美女はそれを聞いて泉の中で静かに微笑んだ。水面にもその静かで美しい、水連を思わせる微笑みが映し出されている。それはホメロスにもしっかりと見えていた。
「それでこちらに」
「言い訳になりますが貴女がここにおられるなどとは」
「それはわかっています」
 穏やかな笑顔をそのままにホメロスに答えてきた。
「ですから。それは御安心下さい」
「有り難うございます」
「ただ」
 だがここで美女はホメロスに対して言ってきた。
「何でしょうか」
「少し。時間を下さるでしょうか」
 こう彼に告げてきたのである。
「時間をですか」
「はい。宜しいでしょうか」
「私としましては別に」
 ホメロスはいささか謙遜した調子で答えたのだった。
「むしろこちらこそ」
「はい。それではですね」
 美女はその言葉を受けてその整った顔に微笑みを浮かべさせた。それからまた述べたのであった。
「後ろを。向いていて下さい」
「はい」
 身体を拭き服を着るのだ。すぐにわかることであった。ホメロスは決して無体な男ではない。だからこそ彼女に対して礼儀正しく振舞っているのである。この辺りはギリシャによくいる英雄達とはいささか趣きが異なっていた。彼等の多くは異性、同性に対してお世辞にも礼儀正しいと言える人物が少ないからだ。
 しかし彼は違った。そういうことだ。だからここでも紳士的に振る舞い彼女に背を向けた。これが彼の気遣いであった。
「有り難うございます」
「御気になさらずに」
「ええ。それでは」
 ホメロスは後ろを向いた。そうして暫く、向こうから声がかかるまで待つつもりだった。しかし。ここで妙なことを感じたのであった。
 中々その声がかからないのだ。不自然なことに。そのかわりに背中から妙な気配を感じ取っていた。ねっとりとしてそれでいてはっきりとした感触だった。悪意と殺意。それは今まで彼がここでは全く感じたことのないものであった。それを感じたがそれでも振り向くことはなかった。
 これは美女との約束であった。だから彼は何時までも振り向かなかった。本音を言えば振り向きたかった。後ろから感じる気配がただならぬものであったからだ。どうしても振り向きたかったがそれでも振り向かなかった。あくまで美女との約束を守ることにしたのである。
 だが中々声はかからない。何時の間にか太陽は落ち夕刻になった。赤い世界になったがそれも終
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