挿話
とあるβテスター、人形遣いと出会う
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6月初頭。現実世界と同じくアインクラッドにも雨季が近付きつつあった、ある日のこと。
僕とシェイリの二人は、第29層の郊外に存在する、いかにも怪しい雰囲気の漂う洋館―――プレイヤー達の間では《人形師の館》と呼ばれているダンジョンを訪れていた。
一昨日解放された第30層に拠点を移す前に、29層で受けられるクエストの攻略を済ませてしまたいという理由からだった。
クエスト名は《人形師の遺産》。
第29層主街区隅の一軒家にひっそりと暮らしているNPCから受けられる討伐クエストで、郊外の洋館に棲みつく人形型モンスターを退治して欲しいという内容だ。
数年前に亡くなったというこの人形師は、死んだ恋人を蘇らせるためにありとあらゆる種類の人形を作り続け、とある賢者から盗み出した秘術を用いて人形に恋人の魂を定着させようとしていた。
しかし、彼の願いも虚しく、肝心の秘術を実行に移す前に自身が病死してしまう。
主街区の住人も人形師のことを不気味がっていたため、彼の死を知らされた者達はようやく安心して暮らせると安堵した―――のも、束の間。
唯一の住人が病死したことで無人となったはずの洋館からは、夜な夜な人形師のものと思しき呻き声が聞こえ、更には彼の遺した人形達がひとりでに動き出し、館に足を踏み入れた者へ襲い掛かるのだという。
依頼主であるNPCは、件の人形師の幼馴染だという男だ。
幼い頃から彼のことをよく知っているのだという男は、恋人を失ってからすっかり狂ってしまった幼馴染の姿に心を痛めていた。
人形師の死を境に洋館に起こり始めた怪奇現象について、街の住人たちからは、彼の亡霊が自分の作った人形に執着し続けていることが原因なのだとまことしやかに囁かれている。
彼の遺した人形たちを討伐し、幼馴染の未練を断ち切ってやって欲しい―――男は涙ながらにそう訴え、続いて開いたクエスト受注ウィンドウに表示されたのが、この《人形師の遺産》クエストだった。
なんともまあ凝った設定だ―――と思うのと同時に、ホラー系全般が苦手な僕としては、あまり気乗りがしないクエストだったことは言うまでもない。
流石に第17層の例のダンジョンほどではないだろうけれど、話の所々に出てきた『亡霊』という単語が僕の不安を煽るのだった。
で、実際に来てみたところ。毎度のことながら、そんな僕の不安は的中してしまうこととなった。
NPCの話から想像していたおどろおどろしいイメージに違わず、洋館に足を踏み入れた僕たちを盛大出迎えたのは、ホラー映画で御馴染みの不気味な造形をした操り人形《マリオネット》だった。
糸吊り人形であるにも関わらず、彼女達を操作している者の姿はどこにも見えない。にも関わらず、宙に浮いた十字型の簡素な木片が、まるで誰かが操作しているかのように動き続けていた。
そんな操
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