ある少女の話
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女から感じられるものは生気ではなかった。何処か無機質な、人形のようなものであった。
ある日街から帰った時であった。僕は彼女と二人で洋館に続く道を歩いていた。前には赤い大きな夕陽があった。そして海はその夕陽に照らされ赤く輝いていた。
「あの」
僕はそれを見ながら彼女に声をかけた。
「はい」
「今日の夕食は何でしょうか」
「何が宜しいですか?」
そう聞かれるといつもこう答えるのだ。
「そうですね」
僕は考え込んだ。
「野菜をメインにお願いします」
「わかりました」
彼女は頷いた。そして屋敷に帰り一時間程すると呼ぶ声がした。食堂に行くともう食事が並んでいるのである。これもいつも通りであった。
夕食を食べて風呂に入る。血の匂いはもうしなかった。あれは一体何であったのだろうか。ふとそう考えていた時であった。
「ん!?」
僕は風呂場の木の柱に傷を見つけた。見ればかなり長い。
そしてその傷は赤くなっていた。それは何と血であった。
「血」
僕は咄嗟に自分の身体を見た。だが何処にも傷などなかった。僕の傷ではないようだ。
それから木の傷口を見た。見れば血はこの木から滲んでいるのだ。
赤い樹液を出す木もあるという。だがそれにしてはこの木は古い。それは有り得なかった。
「使用人か」
ふとそう考えたがすぐに違うと思った。僕は彼等の影すら見てはいないのだ。
とりあえず前に感じた血の匂いの正体はこれだと思った。だが何故ここにそんなものが付いているのかが謎であった。
風呂からあがると僕は部屋に帰るまで屋敷の中を細かく見た。短い道であるがそれなりに見てみた。すると燭台の火には熱はなく、そして壁も冷たくはなかった。むしろ温かかった。
益々もっと無気味であった。僕はこの屋敷に不自然さを感じずにはいられなかった。そして遂に我慢できず次の日の朝彼女に問うことにした。まずは風呂場の血であった。
「少し気になったことがあるのですが」
僕はやんわりとそう切り出した。
「はい」
彼女は僕が何を言わんとしているかわかっているような物腰であった。
「風呂場に血が付いておりました」
「血が」
「ええ。あれは使用人の何方かのものでしょうか」
「あれは」
彼女はここで自身の右手を見せた。
「これです」
そしてそこには一つ長い傷があった。
「それは」
「あれは私の傷なのです」
落ち着いた声でそう答えた。
「貴女の」
「はい」
彼女はまた答えた。
「貴方の仰りたいことはわかっているつもりです」
「そうなのですか」
僕はそれを聞いて彼女が何者なのかうっすらとわかった。
「今まで隠していたことですが」
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