ある少女の話
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「よかった」
彼女はそれを聞いて顔を綻ばせた。
「鴨は癖がありますから」
「はい」
「気に入って頂けるか不安だったんです。お出しするのが怖かったんですよ」
「そうだったのですか」
ここで僕はあることに気付いた。彼女は出すのが怖かったと言った。料理は使用人が出している筈なのに。そして見たところ彼女は使用人に全てを任せているようだ。少なくとも僕はこの家にいるという使用人達と彼女が話をしているのを見たことはない。それどころか彼等の気配すら感じない。それで何故鴨を出すと知っていたのであろうか。そして何故今出すと言ったのだろうか。ふとそう考えた。
「お気に召されて何よりです」
しかし彼女は僕のそんな疑念を吹き消すかのようにまた声をかけてきた。絶好のタイミングであった。
「それではデザートもお楽しみ下さい」
「はい」
僕は何が出て来るかと思った。ふとここでこう思った。
(チョコレートとバニラの二つのアイスだったらいいな)
単純に好みだけでそう思った。アイスクリームは好物である。
「デザートは場所を変えませんか」
彼女はここでこう提案してきた。
「場所をですか」
「はい」
彼女は答えた。
「実は用意してあるんです」
「ほお」
僕はそれを聞いて声をあげた。
「何処ですか」
「あちらです」
隣の部屋を指し示した。そこはリビングであった。
「二人でゆっくりと召し上がりませんか」
「いいですね」
僕はそれに乗ることにした。
「それではご一緒させて下さい」
図々しいがその申し出を受けることにした。そこで無意識のうちに確かめたいことが一つあった。この時僕は気付いてはいなかったがやはりこの屋敷に対して疑念を抱いていたのだ。
「はい」
彼女は僕を案内した。そこには古風なテレビの前にソファーが置かれていた。その前の大きなテーブルに二つのガラスの皿が置かれていた。そしてそこには白と黒のアイスクリームがあった。
これを見て僕は意外にも思わなかった。自然なことだと思った。だがやはり無意識のうちにそれがこの屋敷では自然のことなのだと確信した。そしてそれが異常なことだということも。
「どうぞ」
彼女は僕に座るように薦めた。僕はそれに従った。そして席に着いた。
それからアイスクリームを食べた。僕達は楽しく談笑しながら食べた。それからは昨日と変わらなかった。夕食と風呂、そして酒を楽しみ寝た。こうした日が二三日続いた。
やがて僕はこうした生活に慣れようとしていた。望むものは何でも何時の間にか手に入る。美しい景色も見ることができる。しかも側には美しい少女がいる。満ち足りた生活であった。
だが僕はその生活にふと思うことがあった。
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