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とあるβテスター、奮闘する
つぐない
とある剣士、――する
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けたまま、少しずつ近付いてくる。
その顔は───無表情。
男の不意打ちを難なく躱し、大剣による全力の斬撃を片手で受け止め、戦意喪失に追い込むまでの間にすら───少年の表情は一ミリたりとも変化することはなかった。
そんな少年の何も映していないかのような黒い瞳が、ますます男の恐怖を掻き立てる。

「ひ、あぁぁ……!」
恐怖。それは、男に快楽をもたらしてくれるものだったはずだ。
ターゲットが死の瞬間に浮かべる恐怖は何よりも男に喜悦を感じさせ、その恐怖ごと相手を蹂躙した時の快感は、他の何よりも勝っていた───はずだった。

「………」
「や、やめ……、くるなぁぁぁ……!」
しかし。
少年の無言の威圧感を受けて、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまった男が感じているのも───紛れもなく恐怖だった。
恐怖を抱かせながら屠る側にいたはずの男は、いつの間にか、恐怖を抱きながら屠られる側となっていた。

「な……、何なんだよ、何なんだよッ!なん、なんだよォッ!?」
とうとう建物の壁際まで追い詰められた男は、パニックを起こしたように喚き散らした。
どう見ても中学生にしか見えないような、年端もいかない少年だというのに、そんな相手に追い詰められたことへの悔しさすら感じる余裕もないほどに、男の精神は恐慌状態にあった。

「俺が───何したって言うんだよッ!!」
堪らずに、男は叫んだ。
自分からPKを仕掛けたのだということも忘れて、恐怖で引き攣った顔を見るも無残な形に歪めながら、叫んだ。
同じことを言った相手を嘲笑いながら殺してきた自分を棚に上げ、男は黒衣の少年に向かって、叫んだ。
叫んで───しまった。

その、瞬間。

今まで何の色も映していなかった少年の瞳が、男の言葉を聞いた瞬間、大きく見開かれた。
同時に、少年の保っていた無表情が初めて崩れる。顔を歪めて歯を食いしばり、凍てつくような視線で男を射抜いた。
男の叫びを切っ掛けに、少年から堰を切ったように溢れ出した感情は───憎悪。

「ひッ───」
突如豹変した少年の姿に、男が短い悲鳴を漏らしたその刹那。
男の右耳を掠めるように突き出された少年の剣が背後の壁へと突き刺さり、硬質な金属と障壁の衝突する轟音が男の頭を揺さぶった。

「何かしたのか、だと……? ふざけるな……」
恐怖と衝撃の入り混じった顔で絶句する男へと向けて、少年が初めて口を開いた。
男の頭の真横に付けられた剣の切っ先は小刻みに揺れ動き、少年が憎悪に戦慄いているのだということを如実に物語っている。

「……このギルドエンブレムに、見覚えはないか」
「は───」
「答えろよ。このエンブレムに見覚えはないのか?」
何を言っている、と問い返そうとした男の言葉は、少年の威圧するような声に封
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