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とあるβテスター、奮闘する
つぐない
とある剣士、――する
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れたターゲットは、一人も生きて帰ることはなかった。
ただ一つの例外を除いては───であるが。

「あーあ、あと3日も待たなきゃ殺せねぇのかよ。ウゼェな……」
吐き捨てるように言ってから起き上り、格子窓にかかったカーテンの隙間から外の様子を覗う。
圏外村《ラト》にはNPCの住人もそれなりにいるが、時間が時間ということもあり、男の泊まっている宿の周辺には人っ子一人見当たらなかった。
夜間のうちはモンスターが侵入してきやすいため、日没が過ぎた後、NPC達はこぞって自宅に籠ってしまうのだ。

殺人行為によって、変わり映えのしなかった彼の生活は一転、快楽という名の潤いに満たされた。
だが、しかし。そのかわりとでも言うのか、人を殺せない間に感じるストレスの量は、以前とは比べ物にならなくなっていた。
殺人中毒───とでも呼ぶべきか。
たった10日間の待機期間すら、今の男にとっては他の何にも勝る苦痛の時間だった。

だからだろうか。
カーテンの隙間から覗いた漆黒の向こう、村の入口から一人のプレイヤーがこちらに向かって歩いてくる姿を、目ざとく見つけてしまったのは。

───あ? 何だアイツ……。

何かを探すように村を歩き回るプレイヤーの姿を、男は訝しげに観察した。
カーソルはグリーン。男のような“訳あり”というわけでもなさそうだ。

───グリーンの奴が、こんな所で何やってんだ?

男のようなオレンジプレイヤーでもない限り、自分から圏外村を訪れる者はほとんどいない。
各階層の主街区を始めとした圏内の街とは違い、ここのような圏外村では犯罪防止《アンチクリミナル》コードが働かないからだ。

毒の継続ダメージや高所からの落下ダメージなど、圏内では無効となる様々な要因によるダメージが、ここ圏外ではフィールドと同様に適応される。
更にはモンスターも侵入可能であり、村の中にいるからといって油断することはできない。
そして何より、コードによる保護のないエリアでは、プレイヤー同士の攻撃が障壁に妨げられるということはない。
つまり、例え村の中であろうと、そこが圏外であるならPKが可能だということだ。

そんな仕様だからこそ、圏外村───ましてや半年以上も前に攻略済みの第17層に存在する此処《ラト》には、普通のプレイヤーが近寄ることはほとんどない。
逆に、そんな仕様だからこそ、男達はほとぼりが冷めるまでの潜伏場所としてこの村を選んだのだ。

そんな圏外村の、それもこんな真夜中に一人で歩き回るとは、なんと不用心なプレイヤーがいたものか。
男はそう思い、しかし思っているのは上辺だけと一目でわかるような、嗜虐的な笑みを浮かべた。
何故なら男は、とても退屈していたからだ。
男にとっての退屈とは即ち、人を殺せないことであって、それ
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