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とあるβテスター、奮闘する
つぐない
とある剣士、――する
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“その道の天才”が存在し、それはここ、SAOにおいても例外ではない。

そして───男は天才ではなかった。

スタート当初こそ他のプレイヤーを出し抜くことに成功したものの、一週間も経つ頃には男の勢いは完全に失速し、ゲーム開始から一ヶ月後のボス攻略会議にすら参加できるレベルではなかった。
何の予備知識もないのだから当然といえば当然なのだが、自分が見下していたプレイヤーに次々と抜かれていくことを許容できるほど、男のプライドは低くはなかった。

そうした悔しさや攻略組への嫉妬心から、意固地になってがむしゃらにレベルを上げ続けた頃もあったが、攻略組と自分との一向に縮まらない差を実感させらるうちに、いつしか上を目指すという気力すら萎え切ってしまっていた。
かわりに男の胸に湧いてきたのは、攻略組として最前線に立つトッププレイヤー達への劣等感と、自身の力を誇示したいという願望。

───何が攻略組だ、何が《ユニオン》だ。ふざけやがって……、ふざけやがってぇ……ッ!

こんなはずではなかった。
俺はこいつらとは違う。
俺はこいつらよりも優れた人間だったはずだ───
頂点を目指すことを諦め、腐った日々を過ごせば過ごすほど、男の抑圧された感情は増すばかりだった。

そんな日々にうんざりしてきた頃の、ある日のことだ。
男の前に、“あのプレイヤー”が現れたのは。

───人を、殺してみたくはないか?

どくん、と。
仮想体《アバター》たるこの身体には存在しないはずの心臓が、ひときわ大きく鼓動を打った気がした。

人を殺してみたくはないか───そのプレイヤーは、もう一度繰り返した。

いくら目抜き通りからは離れているとはいえ、ここは紛れもなく主街区の真っ只中だ。
冗談で言ってるにしろ本気にしろ、こんな会話を誰かに聞かれようものなら大問題になることは想像に難しくない。
最悪の場合、《ユニオン》の連中にしょっ引かれてもおかしくはないだろう。───だというのに。

───どうした、人を殺したくはないのか?

周囲の人間などまるで意に介していないとでもいうように、そのプレイヤーはただ、男に向かって同じ問いを繰り返す。
ポンチョのフードを目深に被っており、その表情は伺えない。
唯一見えている唇の両端は吊り上がり、この世の全てを引き裂くような残忍な笑みを形作っていた。

───殺したいというのなら、俺が手伝ってやろう。

どくん。
男の中で燻っていた何かが、このプレイヤーによって解き放たれようとしているのを感じた。

当然ながら、このプレイヤーとはまったくの初対面だ。しかも相手は未だに素顔すら見せていない。
どう考えても怪しい。常識的に考えれば、こんなものは罠だ。
タチの悪い悪戯で、男が誘いに乗る素振りを見せ
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