つぐない
とある剣士、――する
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男は死んでもそうは思わないが、どうせ現実世界に戻ることは叶わないだろう。
“死んで覚える”ことが可能だったベータテストの頃ですら、碌に登れずにテスト終了となったのだ。
全100層からなる浮遊城アインクラッドを攻略することなど不可能に決まっている。───だったら。
ここにいる連中の中でトップに立てば、それは即ち、自分がこのゲームのナンバーワンだということだ。
ゲームのナンバーワン。つまりはこの世界の頂点。
自分がこの世界の頂点に立つことができれば、ここで何をしようと許される。
例えそれが狩場の独占だろうと、他プレイヤーへの嫌がらせだろうと。あるいは───人を殺そうと。
世界の頂点に立つ自分に逆らおうとする者など、この腑抜けどもの中にはいないだろう。
SAOのクローズドベータテストに参加していたのは、この10000人の中でもたったの1000人だ。
たったの1000人。それもアバターのレベル・所持品は正式サービス開始と共にリセットされ、スペック的には自分と大差はない。
こうして騒いでいる馬鹿どもの中には、そのベータテスターだって含まれていることだろう。
連中が無様に喚き散らしているうちに、スタートダッシュを決めることができれば───
───ひ、ひひ。なんだそりゃ、最高にイイじゃねぇかよ……!
自分の頭に浮かんだ名案に、男は内心笑いが止まらなかった。
こんな状況で一人だけ笑っていたら精神に異常をきたしたと疑われかねないので、もちろん顔には出さない。
もっとも、ある意味では既に異常をきたしていると言えるのだが、当の本人がそれに気付く筈もなかった。
広場の出入り口が通行可能になるのを見計らい、パニックを起こしたプレイヤー達に紛れて街を出た。
門を出て、眼前に広がる広大なフィールドを見渡せば、元βテスターと思わしきプレイヤーが数人、真っ直ぐに同じ方向へ走り去っていくのが見えた。
その動きの迷いのなさから見て、彼らの向かった先に効率のいい狩場があるに違いない。
「馬鹿テスターどもが、そうはさせるかよ。頂点に立つのはこの俺だ!」
遠ざかっていく彼らの背中へ吐き捨てるように言いながら、男はテスター達の後を追って走り出した。
内に決定的な歪みを秘めながら。
だが───しかし。
オンラインゲームの常とも言えるのだが、サーバーでトップに立つようなプレイヤーと一般プレイヤー達との間には、決定的な壁が存在する。
もちろん、金と時間を費やせばある程度は差を縮めることもできるのだが、だがしかし、それでも男の目指した“頂点”に立つプレイヤーと肩を並べるまでには至らないだろう。
学問・スポーツ・芸術etc...ありとあらゆる分野の世界には、必ずその道の頂点に立つ者がいるように。
オンラインゲームという分野にも
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