第5話「悲しい時ほどよく笑う」
[1/6]
[8]前話 [1]次 最後
厚い雲に覆われた空から光が地上に届くことはない。
光のない戦場で響くのは、金属同士がぶつかり合う音、人体を裂く生々しい音、そして闘志に燃える者たちの声のみ。
人間と天人の激しい戦闘が勃発していた。
双葉は刀を振り上げ、天人を次々と斬り殺していく。
舞うように、しかし確実に敵の急所を突きながらトドメを刺して敵を倒し、また次の敵へ攻撃を仕掛ける。
だが敵を倒すたびに消費する体力は大きく、ほんの少しずつではあるが双葉の息は荒くなっていった。男との体力の差に苛立ちを感じるが、その気持ちを天人に対する憎悪と合わせて力に変えて、今は戦いに挑んだ。
「双葉はん。大丈夫でっか」
たまたま隣に居合わせた岩田が明るい口調で問いかけてきた。
「他人より自分の身を案じろ!」
叫ぶように言い放ち、双葉は目先の天人へ突進する。跳躍して、自分よりも遥かに大きい背丈の天人に刀を振り下ろした。
眼を潰す勢いで攻撃するが、僅かに避けられてしまった。刀と剣がぶつかり合う金属音と共に、双葉は跳ね返されてしまう。とっさに身体を構えて着地し、体勢を整える。
すぐに反撃をしようとするも、天人の方が速かった。
見上げた時には刀が振り下ろされていた。双葉は寸前で攻撃を受け止めるが、相手の力の方が強く中々押し返せない。
その小さな反抗を嘲笑うかのように、目の前の天人は双葉を蔑んだ。
「素直に我らに従ってれば、こんな所で無駄死にせずにすんだものを」
「そうさせたのは貴様らだろ!」
憎悪に満ちた眼で、双葉は鋭く睨んだ。
だが増幅する怒りとは裏腹に、双葉の刀はどんどん押されていく。
――このままでは……
殺られる。
全てを奪われ、仲間の仇討もできず、どこかで生きているはずの恩師にも会えないまま。
終わる。終わってしまう。
――……クソッ!
双葉の中で憎悪と悔しさが入り混じった気持ちが走る。
しかし攻撃は容赦なく彼女を追いこんでいき、死は確実に目前へと迫った。
だが。
「どりゃあああああああああああああ!」
怒涛の掛け声と共に、一本の刀が乱入する。
岩田だ。彼は渾身の力で天人の刀を押し戻していく。
同時に余裕が生まれ双葉は岩田と共に天人を押し返し、直後に跳躍してトドメを刺した。
一安心したせいか、双葉はその場に座りこんでしまい、荒れた呼吸をこぼす。
そこに彼女を励ますように手が差し出された。
「言うたやろ。ワイが支えたるて」
岩田が片目をつぶって言う。
双葉は仏頂面を浮かべながらも、彼の手を掴んで立ち上った。
「余計なことを。……借りを返さなくてはならなくなったではないか」
「恩返しやったらチューでええよ」
「誰がそんなことするか」
吐き捨てるように断言され、岩田は分かりやすくしょんぼり
[8]前話 [1]次 最後
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ