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【銀桜】5.攘夷篇・第一部
第5話「悲しい時ほどよく笑う」
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戮を楽しむバケモノと化した。
 そして目覚めた狂気に動くまま虐殺を楽しんだ。
「私が消したんだ。護ると決めた『笑顔』を……私が壊した」
 あれだけ散々言っておきながら。
 兄にも岩田にも高杉にも『護る』と豪語しておきながら。
 この手で大好きだった『笑顔』を消した。
 そしてあの戦場で笑ってたのは自分だけ。
 なんて馬鹿げた話だろうか。
「……ハハハ……」
 諦めたような疲れたような、力のない声がこぼれる。
 いいや、もうそんな声しか出なかった。
 もう笑うしかなかった。
「……ハハ」
「………」
「アハハ……」
「………」
「……ハハハ…アハ……アハハハんん!」
 笑いがこぼれる口が急に閉ざされる。
 双葉の唇に重ねられた、高杉の口づけによって。
「やめろ!こんな時に……」
 やっと正気に戻った双葉は、彼の唇のぬくもりを強引に突き離した。
 だが高杉は真剣な眼差しで双葉を見つめ、そして血に濡れた唇で当然のように告げた。
「言っただろ。同じだって」
「……同じじゃない。お前さえ殺してしまうかもしれない」
「殺したいほど愛されてんなら、俺は嬉しいぜ」
 フッと笑みを浮かべて、高杉は双葉を強く抱きしめた。
「やめろ……私を……許すな……」
 引き千切れるような声を上げ腕の中でもがく。
 けれど、高杉は離そうとしなかった。

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「私は……みんなを……岩田を……」
「もういい。もうやめろ。そうやって《テメェ(自分)》を責めんのは」
「……駄目だ……許されない……」
「俺が許す」
「……許されたら……またみんなを……殺してしまう」
「俺が絶対止めてやる」
「……そんな……」
「俺を信じろ」
「…………」
 己に課した罪は一つ一つ愛する男に解かれ、また唇が重ねられる。
 そうして、深い愛が注がれていく。
 それは双葉が求めていたモノだった。
 だが、こんな形で欲しかったわけじゃない。
 縋るように抱かれたかったわけじゃない。



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 いけない、と心が訴えた。
 咎める声が全身を駆け巡り、一度は拒もうともした。



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 だが追いこまれた人間ほど、優しさに惹かれてしまう。
 血みどろのバケモノを受け入れる彼の優しさに溺れてしまう。
 双葉は高杉に身を委ねるしかなかった。

 この後に、『銀桜』と呼ばれた少女が戦場を舞い踊る。

=終=


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